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彼と彼女のパラフィリア◆05「彼女の土曜日」

毎週土曜日は甲斐くんの家にお泊りする日。
普通の恋人同士なら、待ち遠しい土曜日となるのだろうけど、私の気持ちを一言で表現するなら『憂鬱』だ。甲斐くんに会って話したりくっついたりするのは楽しみなんだけど、こないだの一件から、毎週土曜日のお約束ができてしまったので、私の気持ちは落ちてしまっている。

最初は望んでお尻を叩いてほしいと思っていたが、今まで自分のいい加減な考え方や、都合の悪いときには適当にごまかしてあしらってきたことは、ほとんど露呈することもなく、誰にも咎められなかったのでこれでいいものだと思っていた。
甲斐くんと出会ってからは、自分の甘い考えや行動を注意されることが増えてきて、今までは誰にも気づかれていなかったことを甲斐くんは、私の心を見透かすようにいとも簡単に問題点を挙げてくる。
本当はそんな関係を望んでいたはずなのに、いざお仕置きされるときのあの張り詰めた空気には慣れることがない。
私のことわかってくれるいい彼氏。それは決して間違いではない。
甲斐くんの頭の回転の早さについていけなくて、怒られそうなときにとっさに逃げることがなかなかできないのだ。注意されると胸が痛くなるような突かれたくない原因で、叱られていることが何度があり、私の求めていたお仕置きのある生活に疑問を感じるようになっていた。

甲斐くんから預かった合鍵で、玄関ホールのガラスで出来た自動ドアを解錠しエレベーターで最上階にあがる。
ペンシル型のマンションで最上階は甲斐くんの住む一戸だけになっている。本来はファミリー向けの部屋で、実際物置と化している部屋が多くある。甲斐くんは広いリビングとメインの寝室だけを使っていたので、一部屋を私が使えるように片付けてくれたくれたものの、結局甲斐くんのベッドで添い寝してばかりである。

「おじゃましまーす」
「いらっしゃい」

リビングに置いてあるいくつものパソコンのモニターの前に座る甲斐くんは、まるで家具のように今日も同じ定位置にいる。
彼女の私が部屋に入ってきてもこっちをみてくれない。
そんなのいつものことなので、とやかく言うのはスマートじゃないかなと思って、ついつい我慢してしまう。
だけど、やはり寂しいものは寂しい。
私はピアノの鍵盤蓋を勢い良く開けると、わざと音を立てるように椅子に腰を掛ける。
鍵盤を叩くように和音が続く曲を弾き始める。
楽譜に載ってる強弱の記号はまるで無視しているので演奏しているというより、ただただ自分のイライラを鍵盤を叩いて表現している感じが強い。

「どうした?荒れてるみたいだけど」

グランドピアノに手を乗せて、何も悩みもないような涼しい顔をした甲斐くんが声を掛けてきた。
その甲斐の表情にさえ少し苛ついてしまったが、八つ当たりもいいところなので、私はひとつ大きく深呼吸して苦笑いを見せた。

「女の子はね、色々ストレスがあるの」
「男だってストレスくらいある」
「甲斐くんは人生うまくいってる感じにしか見えない」

私は叩くように演奏していた手を止める。すると甲斐くんは私の両肩に手を掛け、彼のいるほうへ上半身を向けさせた。
甲斐くんの顔を目の前にすると、さっきまで抱いていたイライラは忘れてしまう。まるで魔法じゃないかと思ってしまう。

「俺にだってうまくいかないことあるよ」
「たとえば?」
「お前のご機嫌とること」

そう言いながら、甲斐くんは私の唇に自分の唇を重ねた。

「そうかなぁ。私はいいように操られてる気がしちゃう」
「気のせいだよ。頭の回転早いくせに単純なバカってなかなか相手にする機会ないから難しいよ」
「バ…バカって、なにそれ!」
「嘘ついたら怒るよって、響に言い聞かせてる手前、自分も嘘ついちゃいけないなって思ってたら、つい本音が」

わざと言ったらしく、甲斐くん笑いながら私の膨らませた両頬を大きな右手でつぶすようにつかんできた。
かなわないなぁ…。
私の心の声が呟く。

「19時にレストラン予約してあるから、ピアノでも弾いて待ってて。あと少し仕事が残ってるから終わらせたい」
「うん」

甲斐くんは私の頭を撫でると、早足でデスクのほうに戻っていった。レストランデートに浮かれたいところだけど、その後に待ってるであろうお仕置きのことを考えると、ピアノを楽しく弾く気にはなれない。
パソコンのモニターがいくつも並ぶ甲斐くんのデスクは、私の知らない甲斐くんの横顔が見られる。
私はまったく知らなかったのだが、甲斐くんは若手起業家として有名らしい。収入もかなりあると、なにかのゴシップ記事に載るほどの人物だったようで、そんな彼とスパンキングという共通の趣向で出会うなんて、人生とは読めないものだなと思っている。

甲斐くんは仕事を終わらせて、お気に入りの車でレストランに移動する。レストランは、甲斐くんの家から大して離れていない立地なので、歩いていくかと聞かれたが、甲斐の運転する車の助手席に座りたいと無理を言って、わざわざ車を出してもらった。

甲斐くんが予約したレストランはカジュアルなイタリアンだった。行きつけの店らしくお店の人に挨拶されている。

「あれ甲斐くん、今日は飲まないの?」
「車で来たいって、こいつが言うからさ」
「もしかして彼女さん?」
「あ、はい。はじめまして」
「可愛いらしい子だね、ゆっくりしてってね」

私だけ一杯飲むのは気が引けたが、こんなおいしそうなイタリアン目の前にして、お酒を我慢するのはさすがにできなかった。

「甲斐くんごめんね!一杯だけだから」
「一杯だけな」
「はーい」

甲斐くんに仕事の電話がかかってくると5分から10分は席に戻ってこない。
お酒飲みきっちゃった…。甲斐くんまだかなぁ。
私のグラスがあいたのを確認したのか、店員さんが声を掛けてくれる。

「おかわり注ぎましょうか?」
「うーん…お願いします」

ちょっと思い切ってしまった。
デートの最中なのに仕事の電話で席立つほうが失礼じゃん?
と、心の中で言い訳を並べながら二杯目のお酒をいただく。
調子に乗って三杯目をウエイターさんが持ってきてくれたと同時に甲斐くんが戻ってきた。

「一杯って話は嘘だったわけだ」
「や、いや、ちがうの」
「何がちがうの?説明してみろよ」
「お料理おいしいのに甲斐くん電話でいなくなるし、つまんないから飲んじゃった…ごめん」
「ごめんは後で聞くわ。飲みたきゃ飲めよ。俺運転するから飲めないけど」
「…ごめん」

お料理は文句なしにおいしいけど、甲斐くんの上っ面だけの表情と言動を見ていると胸が痛くなってくる。
彼の機嫌があまり良くないのは私のせいだ。
そんな甲斐くんと過ごしていたら、私の口数はどんどん少なくなっていき、冷めた料理を目の前にして私達も冷めた空気に包まれていた。

「帰ろう」

重い空気に耐えられなくなった私は口を開く。

「どこに?」
「甲斐くん家」

私と会話をしているのに目も合わせず、彼はタバコに火をつけた。甲斐くんの機嫌の悪さはひどくなる一方だ。

「わかった」

一言だけ呟くと、早々と会計を済ませ席を立ち上がり、歩く早さも気にしてくれない甲斐くんの背中を、私は小走りで追いかけていく。土曜日とは言え、オフィス街にあるレストランなので店を出ても人の気配は少なかった。人の目を気にせず楽しめるように、ここのレストランをわざわざ選んでくれたのかと考えると、申し訳ない気持ちでいっぱいになり、胸が痛んで涙があふれてきた。

「後ろに乗って」

薄暗い駐車場では私が泣いてるのを気付いてないのか、私のことを見ていないのか、甲斐くんは冷たい声で指示を出して後部座席のドアを開ける。
言われるがまま後部座席に座ろうと、車内に足を入れるとそのまま押し倒される形でシートと床に手がついた。

「帰る前にお仕置きな」

一緒に後部座席に乗ってきた甲斐くんは、私の腰を抱きかかえて簡単と言わんばかりに素早く下着をおろした。私は突然の出来事に頭が真っ白になって、抵抗したり声をあげることすらできずにいた。

「約束やぶったらどうなるんだっけ?言ってみて」

まくり上げられたスカートとおろされた下着の間から見えているであろう、丸出しの私のお尻を軽く叩きながら、甲斐くんは言った。

「…いや、無理。家に帰ってからにして、お願い!」
「約束やぶったらどうなるの?」

一発、二発、三発と甲斐くんの平手が私のお尻に打ち落とされる。叩かれた痛みより、誰かに見られるんじゃないかという不安と恥ずかしさで冷静に考えることができなくなっていた。

「仕方ねーな。外だし早く終わらせてやるから、30回我慢な」
「やだ…お家に帰っ…ったい!」

きつい一発が私のお尻に落ちてきた。

「そんなに俺ん家がいいなら、エレベーターホールでお仕置きしようか」
「やだ無理!ごめんなさいぃ!」

これ以上、甲斐くんを怒らせても怖いので、私は大人しくお仕置きを受けることにした。いくら後部座席がスモークガラスになっていて、外から見えづらいとはいえ恥ずかしいものは恥ずかしい。車内は広くもないので、叩き損じたり逃げられないように、甲斐くんはいつもよりきつめに私の腰を抱きかかえているようだ。

「恥ずかしいっ…痛いしっ…甲斐くんっ…」
「黙って大人しく叩かれてなさい」
「んんっ…はいっ…っん」

暗い車内では振り返っても表情が見えないし、甲斐くんの冷淡な声色からは抵抗しないほうが懸命だと、私の本能が言うので我慢して声を殺しながら、お尻を叩かれ続けた。
普段のお仕置きで30回は少ないほうだから、すぐに終わると思っていたけど、外で叩かれているせいかなかなか終わらない。

「あと10回」

甲斐くんが私の耳元で囁くと、私は強く目をつぶった。
一発一発お尻の下からすくい上げるように、容赦なく平手を打ち込んでくる甲斐くんは本当に怖い。
心の中で10数え終わったと同時に、甲斐くんの手も止まった。

「終わり」

そう言って甲斐くんは私の腰から手を離すと、まくり上げたスカートをおろしてくれた。

「運転席に移動したいから、ドア開けるぞ」
「私も助手席に移りたい…」
「じゃあ早く下着穿いて。家帰ったらすぐ脱がせるけどな」

甲斐くんはふふっと鼻で笑う。私が慌てて下着をあげると、甲斐くんは運転席に、私は助手席へと移動をした。
車内にはエンジン音だけが響いている。沈黙が続くのはつらいなと思っているうちに、甲斐くんの家のマンションに到着したが、家に戻ったらまた続きがあるんじゃないかと考えると、気が気でなかった。
駐車場からエレベーター、玄関を開けても甲斐くんは声ひとつ発しないので、怖くて私も黙ったままついていくだけだった。
玄関の扉を開けるとそのままデスクに向かった甲斐くん。私は仕方なくソファに一人で腰を落とす。

「…響、さっきはごめん」
「え…?いや、さっきは私が悪かったよ、甲斐くんもお酒飲みたかったのに、私だけ飲んじゃって」
「いや、まあそこはイラッとしたけど、外で尻を叩くほどじゃなかったと思う。ごめん」

見たことのない甲斐くんの無に近い表情は、なんだか気味が悪かった。

「どうかしたの…?」
「さっきの電話でさ、ちょっと嫌なことあって苛ついた後の出来事だったから、つい感情的になってたなと反省してる」
「そっか…私は平気だよ」
「俺はダメだわ。自己嫌悪に襲われてる」
「私が悪いもん。本当は寂しくて構ってほしかったの」

話を進めていると、自分の本当の気持ちがわからなくなってきた。お仕置きをこんなにされる関係は、本意じゃないはずなのに。

「改めて我儘言って、約束やぶった私にお仕置きしてほしい」
「……」

私は何を言ってるんだろう。甲斐くんは黙ったままだし、全然先が読めない空気になってしまった。

「わかった」

甲斐くんはそう言ってデスク用チェアから立ち上がった。ソファに座る私の前に来て、手を差し出すと私の手を取って寝室までエスコートしてくれる。いつもは連行と表現したほうが良さそうな流れなのに、今日は優しくエスコートされている感じがする。
ベッドに軽く腰掛けた甲斐くんのエスコートで、私は彼の膝の上に腹ばいになった。
大切な宝物を確かめるかのように、スカート越しの私のお尻を柔らかい手つきで撫でながら、優しい声で囁く。

「響が反省できるだけの数叩くよ。何回で反省できる?」
「ご、じゅう…回」
「さっきの30回で、俺からのお仕置きは終わってるから、自分で決めた50は我慢しろよ」
「うん」
「返事は、うんじゃなくて、はい。ね」
「は、はい」

私の頭を一撫でした甲斐くんの左手は暖かかった。ついその手にはにかんでしまう。甲斐くんに触れているだけで一人じゃないことをぬくもりから感じることができて、心から安げる気がした。
そんな私の安らぎの時間はすぐに終わってしまう。甲斐くんは私のスカートをまくり上げ、そのままするっと下着をおろすと、右手を高くふりあげて私のお尻に平手を振り落とし始めた。

こんなときでも加減はしてくれないらしい。初めて自分からお仕置きをお願いした恥ずかしさと、言ってしまった後悔もあり、私は歯を食いしばり、きつく目をつぶり、両足はきっちりとそろえたまま力をいれる。

「んっ…んんー!…んはっ」

言葉にならない変な呼吸をしながら私は必死に耐えている。
私が頑張って耐えれば耐えるほど、甲斐くんの叩く手は強くなってきている気がする。
広い寝室で私のお尻が叩かれている音だけが、ただ鳴り響いていていると自覚すると、本当にとても恥ずかしくて顔が赤くなってしまう。

多分20発こえたあたりで、私の腰を抱きかかえている左腕に力が入ったのを感じた、その時だった。今までの叩くペースとは比にならないほどの早さで、平手が落ちてくるようになった。軽くジョギングしているときの早さとでも言えば伝わるだろうか。

早く連打されたことに驚いた私は、ついお尻に手を回してかばってしまった。普段なら口うるさくお説教されてしまう行動だが、甲斐くんは何も言わず左手で私の手を掴むと、さっきと変わらないペースでお仕置きを続ける。

「んん!…いたぃ…ごめんなさいっ…」

我慢しきれず声を出してしまった。早い連打は足をばたつかせても仕方ないと、勝手に自分で納得してしまうくらいの痛みを与えてくれる。

「はい!おわり」

痛みが強いが終わるのは早い。嬉しいようなそうでもないようなメリットがあるらしい。

「痛いよ!いじわる!」
「痛くないお仕置きするつもりはない」

膝からおろされた私は、すぐに下着をあげることができるわけもなく、自分のお尻を優しく撫でた。
薄っすらと涙があふれてきていたが、お尻を撫でている間にすぐにおさまった。叩かれている間は痛かったが、後を引く痛みではなかったようだ。

「自分でお仕置きしてくれって言ってきたくせに、なんでふくれっ面になってんの」
「…むう、そんなことないもん」

甲斐くんは私の手首をにぎると、そばに引き寄せ私を自分の座るベッドの隣に座らせた。

「響、今日は何曜日?」
「…土曜日だけど、まさか」
「まさか何?」
「もうやだよ…」
「酔って忘れてるかと思ってたけど、ちゃんとわかってるんじゃん」

実際は甲斐くんに言われるまで、すっかり忘れていた。自分の甘えた性格のせいで面倒な展開になる、という私によくある流れだと感じる。

「土曜日はなんの日だっけ?約束忘れたってまた言うわけじゃないよね」
「……」

私は覚悟を決め、甲斐くんの目を見つめて口を開けた。

「土曜日は…お仕置きの日…です」

私が夜の店で働いてることを隠しておきながら、付き合いでキャバクラに行くのを咎めたことから、私が自分に都合の悪いことに関して、つい嘘をついてしまうということが露呈してしまった。今まで何度もそんな嘘をついてきた私の言動を改めるために、毎週土曜日は、何があってもお仕置きをするという提案、というか強制的な約束をさせられたのだ。

「それで、どうすんの?」
「…土曜日のお仕置き…してください」
「オッケー」

ずっと無表情が続いていた甲斐くんの顔に笑みが見えた。もちろん素直で可愛い笑顔ではない、実に不敵な笑みだ。

「土曜日のお仕置きって、なんなのかこないだ教えたように言ってごらん」
「…私が、嘘をつかないって約束守れないから…甲斐くんにお尻を叩いて躾けてもらう」
「お尻何回、叩かれるのが抜けてる」
「お尻…ひ、100回…叩いてもらいます…」
「ちゃんと言えたな。どんだけお仕置きしても、この100回は手加減するつもりはないから、響もそのつもりでね」

はあ…調子乗ってしまった自分が憎い。

「じゃあ下着もスカートも脱いで、ベッドの上で四つん這いになって」

自分でスカートと下着を脱がせるというのは、本当に恥ずかしい。上半身は服を着ているのに、下半身だけ裸って状態はどう見ても恥ずかしいと思う。
でも言い返すわけにはいかないし、おとなしく甲斐くんの言うとおり、スカートを脱いで下着もおろしてベッドに四つん這いになる。
足は肩幅に開かないといけない。手の平だけを床につけ腕はまっすぐにする。これが土曜日のお仕置きを受ける体勢なのだ。
この体勢で100回を耐えるのは、ものすごくきつい。なにがきついかって、一打一打ゆっくりと、自分の反省点をわからせるようにお尻を叩くので、感情的にお仕置きされているときよりも、すべてにおいて厳しいのだ。
一打ごとに数を口で数えさせられるので、数え間違うのは許されるわけもなく、もちろん動いたり体勢を崩すごとにも10回追加。初めてこの土曜日のお仕置きを受けたときは、最終的に300回弱の平手を受けていた計算になる。

「響のほうがお姉さんなのに、いつも年下の俺におしりぺんぺんされて恥ずかしくないの?」
「…恥ずかしいよ」

甲斐くんは、小さい子をお仕置きするみたいにおしりぺんぺんと言いながら、軽く私のお尻を叩く。

「でも響は俺の彼女だし、躾けるのは彼氏の役目だから厳しくお尻を叩くよ」
「…はい」

甲斐くんが手を振り上げた気配を感じた途端、激しい破裂音とともに重い一打がお尻に打ち込まれた。
あまりに早い一発目に、私は思わず体勢を崩しそうになったが、持てる力を使って我慢してみせた。

「数、かぞえる約束忘れたの?」

甲斐くんの冷たく低い声が聞こえた。
ふいに落ちてきた一発目の衝撃に、耐えることばかり集中してしまったおかげで、数をかぞえる約束をないがしろにしてしまっていた。

「ごめんなさいっ!いちっ!」

と、私がかぞえるとすぐに二発目の平手が振り下ろされる。

「…にぃ!」

甲斐くんは、まるでスポーツ選手さながらの踏み込みで、私のお尻に平手を振り落としてくる。
お尻の表面より筋肉と骨に響く重さがある。
四つん這いという体勢も、重力があるせいで私のお尻の肉の厚みを分散させている。

「よんじゅうきゅう!」

私は目をきつくつぶりながら、投げ捨てるように数をかぞえていた。

「ごじゅう!」

50をカウントしてから間が少しあいた。ドスっという音とベッドのしなりで甲斐くんが、ベッドに腰掛けたのがわかった。自分の息の荒さで気付かなかったのだが、甲斐くんもかなり息が乱れていて髪をかきあげる姿がなんともかっこよく見えた。
私は相変わらず、真っ赤に腫れ上がったお尻を丸出しにして、四つん這いの状態という散々な体勢のままだが、頭を動かして甲斐くんの姿を見たいと思ってしまうほど、彼から色気のある魅力を感じていた。

「…甲斐くん、大丈夫?」
「真っ赤なお尻のお前に心配されるほどじゃない。ちょっと寝てないから一気に疲れがきたみたいで」

じゃあ今、お仕置きしなくてもいいじゃんと心の中で呟きながらも、疲れ切った甲斐くんの表情をただ眺めていたかった。


「残りは明日にしよ…響おいで」

甲斐くんは私を抱き起こすと、真っ赤に腫れたお尻をさわりながら、ゆっくりベッドに倒れ込む。

「ちょっと…下着くらいはかせてよ」
「だーめ。悪い子はお尻を出して反省しないと。あ、でも風邪ひくから俺のTシャツ、適当にパジャマにしていいよ」

と言いながら、抱きしめたまま離してくれないので、結構恥ずかしい格好のまま、甲斐くんに包まれている。

「お尻痛いから、さわるのやめてほしい」
「躾けたんだからやりすぎてないか確認してるの」
「やりすぎってどれくらいのこというの?」
「手で叩くだけだとやりすぎることはないだろうな」
「じゃあさわりたいだけじゃん!」
「ははは」

甲斐くんの笑いは弱くそのまま寝息を立てて眠ってしまった。
なんだろう…この気持ちは。
中途半端なまま終わらせないように努力してくれたのだろうか、一気に体力の限界を迎え寝入ってしまった恋人の寝顔は、とても愛しく可愛らしかった。
彼氏としてスパンキングのパートナーとして、頼れる男を目指しているのは、私のためなのか彼自身のためなのか、それは彼にしかわからないが、今はとにかく甲斐くんのそばでぬくもりを感じていたい。
明日また赤くされてしまう自分のお尻も労ってあげないと、と思いながら結局時間を忘れてしまうくらい、甲斐くんの寝顔をながめながら、抱きまくらの役目を果たしていた。
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