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夏は夜

部屋で一人きりで食べるご飯ほど、寂しいことはない。夫であるケイスケから連絡が来たのは、小一時間ほど前だった。

「もう、つまんないじゃん」

ケイスケからの連絡は、夕飯を食べて帰るからいらないという内容だった。ちょうど買い物をしていたカナは、その連絡内容を確認してから、すぐに細い肩を落とした。かごの中に入れたものを返すのも面倒だし、今から一人分の料理を作るのも面倒。とりあえずかごに入っている食材は明日に回して、自分の分だけの惣菜を確保し、歩いて帰路についた。

「……はぁ」

一人きりのダイニングに響くため息は、思いの外大きく聞こえる。カナは苛ついた気持ちを何かにぶつけるわけでなく、ため息だけでは到底ストレスを解消になるわけがない。
カナ一人だけの部屋は、あまりに静かでカチコチ時計の秒針だけが音を発している。そんな静寂があまりに慣れないものだから、ふと目についたリモコンでテレビの電源をいれてみた。

テレビで流れていた番組は心霊特集だった。8月の盆前のシーズン、心霊特集にはぴったりな時期である。ポチポチとチャンネルをかえてみても、カナが見たいと思う番組はなく、一周まわって結局心霊特集にチャンネルが戻ってきた。

「これでいっか」

一人分のサラダと少しの揚げ物、インスタントの味噌汁だけの寂しい食卓の相手は心霊特集。最近の心霊動画は、昔より手が込んでいるな、という印象を抱いたが、なんせカナの意識はケイスケの不在に苛ついているので、テレビ番組からはまったく恐ろしさを感じることができなかった。

「……つまんない」

カナが小声でつぶやく。その時だった。きっちり締めていたはずの廊下につながるドアから、普段は聞いたこともないギィと軋むような音が鳴る。カナは、ハッとしてドアの方を向いた。ゆっくりとドアが開く様は、まるで今テレビで流れている心霊特集さながらの不気味を漂わせていた。

「……ケイスケ?」

まだ帰ってくる訳がないのはわかっているが、ケイスケの名前を口に出して念のための確認をする。テレビからはキャーという叫び声が聞こえてくるし、ドアは勝手に開くし、カナはなんだか部屋にひとりでいるのが恐ろしくなってきた。

「……」

カナはキョロキョロと周囲を見渡す。なにかがいるわけでもない。お化けや幽霊なんて非科学的な存在を信じないカナは、今の状況を単に偶然が重なっただけだと思いこむことにした。

コツコツ

キッチンにある小窓から何かが叩く音が鳴った。
こんなタイミングで普段聞きもしない音がしたら、誰しも正気を失うだろう。カナ自身も平静を装っていたが、とっさに走り出し一目散に玄関に向かった。途中に置いていた財布が入っているバッグを手に取り、靴は近所を出歩くときに履くサンダルで家を出た。
マンションの大きな玄関ホールから出たころには、カナの息は少し上がっていた、マンションの外から距離を少し開け、カナは自分の部屋のほうを見る。自室の窓からは煌々と光る蛍光灯の明かりがみえた。

「なんなの……ドッキリ?」

あの光る窓からナニカが見えたりしたら、一人で部屋に戻ることなんて恐ろしくて到底できそうにもない。
ここで様子を見ても仕方がないと思い、カナは最寄りの駅まで歩くことにした。繁華街とまではいかない駅前は喫茶店やファミレス、居酒屋が立ち並んでいる。
早足で駅前まで来たからか、心霊現象に動揺したのか、カナの胸の鼓動は普段より早く、汗が滝のようにわいてくる。
目的もなにも考えず、とにかく駅前までぐんぐんと進んできてしまったカナは、駅に着いてからスマートフォンを家に置いてきたことに気づく。スマートフォンを忘れたことに焦り、逆に冷静になって今の自分の状況を思い返してみる。改めて考えてみたら、持ってきたバッグが軽いことにやっと気づく。

「はぇ?うそ?」

そうだ財布は家計簿つけるためにバッグから出してテーブルの上に置いたんだった。カナの絶望的な表情は、なんと表現すれば伝わるだろうか。ガーンという効果音が頭の上に見えるような、とにかく絶望という感情が彼女のありとあらゆるところから見える。


──


時刻はすでに22時を回っていた。
いつもより少し遅い帰りの電車は定刻通り、最寄りの駅に到着した。大勢が家路に向かって歩いている中、ふと駅前のベンチに見覚えのある人影が見えた。アルコールが少し入っているので、もしかしたら見間違いなのではないかと、そのベンチに近づいてみたが、やはりその人影は気のせいではなく紛れもない彼の妻だった。

「カナ?」

ケイスケが声をかけたら、カナはものすごい早さで声の聞こえた方へ顔を向けた。

「……ケイスケ!」
「なんで、こんなところに?」

ケイスケの姿を見て、カナは安堵したのか、今まで見せていたこわばっていた表情が一瞬で和らいできた。カナはベンチからすくっと立ち上がると、勢い良くケイスケの胸に飛び込んだ。

「……は?なに?どうした?」

普段とはまったく違う妻の様子に、とにかくケイスケはこんな状況になった理由を知りたかったのだが、カナは彼を強く抱きしめるだけで、今すぐに話を聞き出せそうもない。

「……大丈夫」

ケイスケは左手に持っていたバッグを足元におろし、カナの頭をてっぺんから形を確認するかのように、ゆっくりと撫で下ろす。

「……あのね、怖かったの」

ケイスケの存在を身を持って確認したカナの表情は、誰から見ても明るくなっていた。ケイスケはカナの右手をひっぱり、少し強引に手を繋いだ。

仲良く手をつなぐふたりの姿は、とても幸せそうな関係にみえる。


──


ケイスケは体質的にアルコールに強いとは言えない。生ビールを1杯飲んだら、顔が赤くなる体質で、酒を断る手段として日頃から言い訳として使っている。

「スマホは?」
「おうち」
「財布は?」
「おうち」
「家の鍵は?」
「わかんない、覚えてない」
「鍵持ってるの?」
「カバンにはない」
「はあ……」

そんな体質なケイスケの、大して飲んでもないアルコールはカナの語る話題で一気に抜けていった。

「だって、怖かったんだもん」

鍵を閉めていない玄関の扉をゆっくりと開けたケイスケの後ろから、カナは恐る恐る覗くように家の中をキョロキョロと確認する。

「な、大丈夫だろ」
「本当にね!ノックされたの!」
「わかったわかった」
「怖かったんだからぁ……」

本当に恐ろしかったのか、家中をキョロキョロと見回すカナ。その姿を眺めながらケイスケはゆっくりとソファに腰を落とす。

「まず家出る前に俺に電話しろよ」
「だって怖かったんだもん」

ぷうっと頬を膨らませながら、カナはソファに座るケイスケの首に手を回し、彼の膝の上に腰を掛けた。
二人少し見つめ合うと、軽く唇を重ねた。

「……へへっ、ケイスケが帰ってきたから、もう大丈夫」

カナは照れくさそうに、少しはにかんだ。そんなカナの表情は可愛く、愛らしい。

コツコツ

二人の世界は、ノック音で一気に現実に引き戻された。

「また!?」

ケイスケのカナは音が聞こえてきた小窓の方に視線をやると、見慣れたシルエットがさっと逃げていくのが確認できた。
あはははとケイスケが高笑いをすると、カナは怪訝そうな顔をする。

「ノック音は、お隣さんがエサやってるノラ猫だろ」
「え、うそ〜!?」
「今シルエット見えたじゃん」
「本当に?なんだぁ……怖がってた私がバカみたい」
「あれ、おバカさんなのカナの専売特許じゃなかった?」
「え!なにそれ失礼!」

ケイスケはニヤニヤしながら、カナの頭を撫でる。そんなケイスケの表情にカナは少し苛ついたのか、頭を撫でる彼の手を遮った。

「とりあえずお仕置きだな」
「は?なんで?」
「鍵を閉め忘れて注意されるの何回目?」
「今日は仕方ないじゃん」
「俺が聞いてるのは、鍵を閉め忘れたの何回目ってことなんだけど」
「いやだからさ」
「だから何?」
「今日は仕方ないから勘弁して」
「わかった、お尻に聞いてみるよ」

ケイスケはひとつ大きなため息をつくと、カナの腰に左手を回し彼の膝の上に腹ばいになるように体勢を整えた。

「今日は大人しく膝に乗れたね」

ケイスケはクスクスと笑いながら、膝に腹ばいになったカナの薄手のワンピースの上から、軽くお尻を叩く。

「いや、全然そんなつもりはなくて」
「あー、お仕置きされたかったのか。なるほど」
「なるほどじゃなくって」

何やら噛み合わない会話が続く。

「大丈夫、明日からの土日は、カナだけを存分に構ってあげるから」
「いや、本当にそんなつもりはなくって」
「へぇ、俺に嘘つくんだ」
「ちょっ、ちょっと」

大きく振り上げたケイスケの掌は、カナのお尻の真ん中に見事に打ち据えられた。

「ったい!」
「はいはい」

カナはケイスケの膝の上から上体を起こそうとするが、腰をきつく押さえつけられているので、足をバタバタさせる程度の反抗しかできずにいた。
そんなカナの姿を眺めていると、つい意地悪くしたくなるのがケイスケの悪癖で、ヒラリとワンピースの裾を翻し、少しセクシーな下着に関心は持たず、カナの膝まで容易におろしてしまう。

「ひゃっ、やだぁ……」

カナは強引に脱がされたことで、羞恥心を抱いたのかとっさに声を上げた。そんな最初に狙われたカナのお尻の中心部には、うっすらと赤い平手の痕が見える。

ケイスケはカナの腰をホールドしている左手に、再び力をこめてきつく抱える。右手をすっと振り上げると、肌同士がぶつかり合う破裂音と共に、カナのお尻にもうひとつ平手の痕ができた。
その打擲はゆっくりと回数を重ねる。
右、左、真ん中とカナのお尻を打つタイミングは順を追っていく。しっかりとしたケイスケの体格から、たびたび打ち下ろされる平手はとても非情だ。その平手が落ちてくるたびに、カナは小さな嬌声をあげ、痛みに耐えている。
パシンパシンとカナのお尻が打たれている音は、時計の秒針より遅く、ゆっくりとしたペースを保っている。
ケイスケの手が降り落ちてくる痛みに耐えながら、カナは心の中で数をかぞえていた。

「28、29、30」

カナがここで終われと願っていた回数の30回で、ケイスケの手が止まった。

「……お、終わり?」

恐る恐る上体を少し起こし、首をひねってケイスケの顔色を覗くカナ。

「今日はアルコール入ってるし、続きは明日にするか」
「ちょっ……えっ」
「俺、シャワー浴びてくるから、終わるまでコーナータイム」

ケイスケは部屋の隅のほうへ人差し指で差し、目線で移動するように促す。しぶしぶと部屋の隅に移動するカナを横目に、ケイスケはひとりバスルームに向かう。
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