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彼と彼女のパラフィリア

彼と彼女のパラフィリア◆04「彼と彼女の共通点」

響(ひびき)はゆっくりと下着とスカートをあげ、カバンから手鏡を取り出し化粧が崩れてないか確認する。
もちろん泣いた後なのだから、ある程度は崩れているが、泣くであろう前提でアイメイクを薄めにしてきたので、そこまで気にするほどでもなかった。
化粧が崩れていないことを確認した響は安心し、さっそくピアノの鍵盤蓋を開けた。
そのときだった、ピアノの上に置きっぱなしになっていた甲斐(かい)の電話が震える。

「ピアノの上は物置じゃないですよ」

響は甲斐の携帯電話を手に取ると、たまたま画面のポップアップが目に入った。

「昨日はごちそうさま?ボトル?ほう」

響はピンときた。
と言うかそれ以外ないだろう。

「響、コーヒー淹れたよ」

そんなタイミングで甲斐がキッチンから戻ってきた。

「甲斐くん、リサちゃんって誰?」

こわばった笑顔の響の手には甲斐の携帯電話。
甲斐は一瞬はっとした表情を見せたが、一人で勝手に納得したよう口調で話し始めた。

「付き合いで行ってるお店の子だよ。別に変な関係じゃないから心配しないでいいよ」
「どう言われても心配はするよ!お店って?キャバクラかなんか?」
「そんなとこ」
「意外だわ、キャバクラとか行かなくてもモテるでしょ?仕事も順調でお金持ちで顔もカッコイイし」
「うーん。なんかそうじゃないんだよね、多分話しても理解してもらえないと思うわ」
「行くのやめてよって言いたいとこだけど、仕事とか付き合いもあるだろうし…」

響には男の事情があるということは、身に沁みるほど知っている。
それを理由に遊んでいる男がいるということも知っているので、一方的に信用するというのは難しいものなのだが、自分の彼氏に限ってという思い込みも多少あるのだろう。

「じゃあそういう店に行く前には連絡いれるよ。心配なら俺ん家で待っててもいい」

ほう…。
甲斐くんは私の考えを見透かしているのか?

と響が邪推してしまうほど、甲斐の受け答えは響にとって完璧だった。

「コーヒーいらないの?」
「頂きますわよ。じゃあ甲斐くんはちゃんと連絡下さいね。嘘ついたらお仕置きだから!」

響は甲斐の弱みを握ったような言い方をすると、甲斐に一蹴されてしまう。

「俺はそんなくだらない嘘つかねーよ」
「言いたかっただけだし、男の子のお尻叩く趣味はないです…あっコーヒー美味しい」
「はちみつ入れといた。泣くと喉痛めやすいし」

甲斐は爽やかな笑顔で響に話しかける。

「今回は信じるけど、浮気しちゃダメだからね」
「響にとっての浮気ってなに?他の女の尻叩くなってこと?」
「え?は?違うし!」
「お尻痛いから無理って断って、まだ一度もセックスしてないのに浮気するなとは、ワガママ言うよな」
「だって恥ずかしいじゃん」
「彼氏にお尻ぺんぺんされて泣かされてるほうが、よっぽど」
「うるさい、ばか」
「口が悪い子はお仕置きかな?」
「甲斐くんがわざと意地悪したときは免除でしょ!」

響は恥ずかしそうな表情をしながらピアノの前に座り、曲を弾き始めた。
甲斐の記憶の中では耳にしたことがある曲だったが、タイトルが思い出せない。
響の演奏で時間が過ぎていく。二人にとって心地良い時間と空間の共有である。


──


『今日、飲みに行くことになったけど、明日の予定もあるし早く帰るつもり』

甲斐から来た連絡は、あまり嬉しいものではなかったが、明日会う約束を楽しみにしている響は、特に文句も言わずに了承した。
夕方から呼び出された甲斐は、内心つまらない気分ではあったが、昔からの知り合いであり先輩であるお得意様の相手をしなければならかったので、しぶしぶ楽しそうな対応を見せていた。
リサには同伴をせがまれていたので、先輩の好みの子を用意させ接待をする約束を交わし、四人で仲良く焼肉をつついていた。
連れてきた女の子がストライクゾーンど真ん中だったのか、先輩の機嫌も上々だったので、甲斐は一安心していた。
時刻は夜の九時過ぎ、日曜の新宿は平日に比べると人も多くないのでスムーズに歩けた。
焼肉屋から歩いて5分、リサの働く店が入ってるビルの真ん前でリサが突然焦りだした。

「リサ、携帯を忘れてきたみたい!焼肉屋に戻るから、先入っててもいいよ」
「すぐだろ?タバコ吸ってここで待ってるから、気をつけて」

甲斐たちは、ビルの向かいにこじんまりとしたタバコ屋にある灰皿の前を陣取って、リサの戻りを待つことにした。

「甲斐もタバコ吸って酒飲める年になったんだもんな、俺も年をとるわけだ」
「もう21ですよ。って俺のカテキョしてたころの先生ってこんな若造だったんですね」
「お前ほんと生意気が服着てるよな。生徒だったら宿題倍にしてやりたい」

と二人の談笑は続いている。
そのときだった。
甲斐はビルに近づく男女の姿を目にすると、我が目を疑った。
髪はゆるく巻き髪にして、化粧もかなりきちんとしていて人違いかと思うほど違ってみえたが、背丈や歩き方、持ってるカバンが同じなので響なのではないかと直感が働いた。

「ね、ね、あの子どこの店の子かわかる?」

リサが連れてきた女の子に聞いてみる。

「えー浮気ですかあ?リサちゃんにチクっちゃおう!」
「なになに、リサがなに?」
「甲斐くんがね、下の店のナンバーの子、名前なんだっけ、清楚系の子が気に入ったらしいの!」
「へー清楚系?」

リサはどこからどう見ても「THE・キャバ嬢」なので、嫌味っぽく甲斐に言ってきたが、彼はそんなことは気にも止めていない様子。

「その下の店の子の名前わかるの?わかんないの?」

冷たいモードに入った甲斐の声の静かさにリサは勘付いたのか、慌てて嫌味っぽいそぷりをやめ普通のトーンで答えた。

「下の店でナンバーの清楚系だと、多分キョウコちゃんって子だと思う」
「へぇ…キョウコちゃんね」

世間というものは広いようで狭いらしい。
甲斐は顔色ひとつも変えずにそう呟きながら歩きだし、ビルのエレベーターのボタンを押す。
そして四人は揃ってリサの店に入っていった。

へぇ。

少し違和感があった部分がこの一件で、自分の頭の中で繋がったのはすっきりした気持ちではあったが、甲斐にとってもちろん簡単に許せる話ではないのは語るまでもない。


──


『そろそろ解散するし、今から俺の家に泊まりにこない?』

甲斐からお泊りの誘いなんて初めて来たものだから、興奮した響は思わず席を立ちトイレに行くふりをして、洗面台の前で返事を考えていた。

同伴してきたこの客を帰らせたら、体調悪いとか言えば早上がりさせてくれるだろうけど、髪セットしてるし、勝負下着じゃないし、お泊りセットも持っていきたいから…。

と携帯の画面とにらめっこしていると、甲斐から電話がかかってきた。

「もしもし?甲斐くん、どうしたの?」
「俺、今新宿なんだけど泊まりに来れない?」
「バイト終わったんだけど、汗だくで着替えもないから一旦帰ってから行ってもいい?」
「終電なくなるじゃん」
「甲斐くんのためならタクシー使う!」
「へぇ」
「すぐ準備するから待ってて!切るね」

響は急いで指名客の席へ戻った。
客には明日の朝、急にレッスン振り替えてほしいと頼まれたから、今日は早めに帰りたいと伝え会計をボーイに頼んだのだった。
響ら客のお会計を済ませ店の入り口まで送ると、今日はありがとうね、と定形の言葉を並べ早々に追い出してしまった。
一息ついたところで、ボーイから声が掛かった。

「キョウコさん、ご指名のお客様です」
「え?誰?」
「俺も初めて見る人。若造だったよ」
「私もう帰りたいんだけど…」
「それはお客さんに相談して」

ボーイに連れて行かれた先に座っていたのは、最近毎日夢に見るくらい大好きな響の彼氏だった。

「え…え?…なんで?」

呆然と立ち尽くす響に、甲斐は手招きをした。
もちろん甲斐は無表情である。
店に変に勘ぐられるのも面倒なので、甲斐は無表情をやめ作り笑顔で響に声を掛けた。

「座んなよ、キ・ョ・ウ・コちゃん」

キョウコこと響はなにも言葉は発せず、大人しく甲斐の隣に座る。
黙っている響の目を見て、ニコニコしながら甲斐はゆっくり話し始めた。

「俺さ、すごくいいアイディアを思いついたんだよ」
「…怒ってる?」
「仕事だろ、そんな顔すんなよ」
「俺も普通の客と同じ金払ってここに座ってるの。まさか、そんなつらそうな顔見せて指名取ってる?それならもっと怒るわ」
「こんな顔で営業しないし…」
「だよな、じゃあ店なんだそ普段通りの表情で俺にも接して」
「うん」

こわばってた響の表情が少しやわらいだ。
甲斐の軽快なトークのおかげで、響は気持ちが少しずつ落ち着いてくる。
今まで過ごしたことのない環境での二人の時間は、あっという間に過ぎていくのだった。

甲斐は非凡な才能を持っていると、自分でも理解しているが、それ以上に周囲からの評価されているようだ。
響もそのうちの一人である。
甲斐とは軽快に楽しく話していると、知らず知らずの間に問題点や嫌なことを忘れさせられるのだ。人を誘導することで自分のペースで操れるのだから、評価と同じくらい僻みや悪意も生まれてくるのだろう。
本人は決してその技術をひけらかすことはないのだが、相手にすると完全に彼のペースに巻き込まれるので、彼の存在を意識しないわけにはいかなかった。

結局、響は甲斐の酒の相手をするという名目で、一緒に飲み始めてしまった。
甲斐のお気に入りはウイスキーをコーラで割ったウイスキーコーク。響はつられて同じものを飲んでいる。
もちろんそのウイスキーは甲斐がボトルをいれたものである。
彼氏が自分を指名して自分の売上になるようなオーダーをしているという、なんだか変な気持ちがなかったわけではないが、初めて甲斐とお酒を飲めたので、響は上機嫌であった。

「そろそろ閉店だろ」
「えっ?もうそんな時間?」
「さっきボーイが来たときに支払い終わらせた」
「ごめん、甲斐くんと飲んでて楽しくなって酔ったみたい…」

響はとろんとした目で甲斐を見つめる。
わざと響の耳元で甲斐は囁いてみた。

「このあとは俺の家にくるよな?」
「…うん」

甲斐の言葉に響の酔いは、一気に覚めてきたようだ。
店で青ざめるわけにはいかないので、普段通りのキョウコを演じて甲斐を送り出し、その足で更衣室に入り素早く着替え始めた。
なぜ素早く着替えているかというと、ドレスを着ているときに下着のラインが出ないようにTバックを履いている。だがこないだのお仕置きの痕が、まだ少し残っているので人に見られないようにと、素早く着替えていたのだ。

「…またお仕置きかなぁ」

小さく呟きながら、自分のお尻をなでている。
はあ…と、響は大きなため息をひとつついて店を出た。

二人で乗ったタクシーの空気の重さはまるでお通夜のようだった。
甲斐は響の手を握っているが、響からするとこの手が自分のお尻を痛くするのかと考えてしまい、気が散っていちゃつくこともできないのである。
さすがの都会である東京も日曜の夜中にもなると、道路もすいすい進めるので悩む暇もなく、あっという間に甲斐のマンションまで着いてしまった。

「響、酔いは覚めたか?」
「…もう酔いはさめた…甲斐くん怖いよ」
「俺はこないだから何度もお尻叩かれてるのに、まだ隠し事しようとするお前のほうが怖いよ。俺のこと試してるの?」
「…そんなこと」
「そんなことないか。俺さ響に舐められてるのかなとか、色々考えたけど、多分ね、まだまだ躾が行き届いてないだけなんじゃねーかって。ほらピアノの初心者が反復練習で上達するのと一緒で、お仕置き初心者も反復してお仕置きしたら体が覚える」
「そんなこと…」

慌てて否定した響の言葉を遮るように甲斐は冷たく言い放つ。

「そんなことないなら、響はキャバクラでバイトしてたのを隠してたこと、悪くないと思ってるんだ」
「…ちがっ…」
「それならもっとキツく躾けないとダメだな」
「隠してたのは悪いと思ってるの。軽い女だと思われたくなかったし…」
「響が悪い子のときは、どうされるの?」

響は悩ましい表情を見せ、甲斐から視線をはずした。

「…お仕置き?」
「やっぱり躾が足りないんだな。話してる相手の顔を見ろよ」
「…ごめんなさい」
「もう一度聞く、響が悪い子のときはどうなるの?」
「お尻、叩かれる」
「誰から?」
「甲斐くん」
「わかってんじゃん、こっちおいで」

甲斐は響の手首をぎゅっとにぎって、ひきずるようにベッドまで連れて行くと、自分はベッドに座り響を膝の上に乗せた。
丈の短いワンピースの裾はあっという間にめくりあげられ、セクシーな黒のレースのTバックが露わになった。

「お仕置きしやすいように、こんな下着はいてきたの?んなわけないな」
「やだ…恥ずかしいよ」
「大丈夫、Tバックでも下着は脱がしてお仕置きするから」

なんの大丈夫なのか、響にはまったくわからなかったが、下着を脱がされるのは全然大丈夫ではなかった。恥ずかしくて恥ずかしくて、いつも痛みと羞恥心で涙が出ているのだ。
甲斐の平手が響のお尻をゆっくりと染めていく。

年下の彼氏の膝の上に乗せられて、泣いても許されずに真っ赤になるまでお尻を叩かれているという恥ずかしい状況。
甲斐と出会う前までは妄想していたお仕置きだが、現実に数日おきにお尻を叩かれるのは想像以上に痛くて恥ずかしい。今となっては普通の恋人同士みたいな甘い関係を築きたいと思ってはいるものの、自分の配慮の足りない行動で叱られているので我慢してお尻を叩かれるしかないのだろうかと、響は考えていた。

痛くてお尻を庇いたいけど、手で庇ったり勝手に動いたりすると、もっと痛くなるのはわかっているので、響はなるべく耐えるように我慢していた。
甲斐の平手で響のお尻がまんべんなく赤くなってきた。
回数で言うと50近く叩いたのだろうか、甲斐はまだ許すつもりはなかった。

「道具を使って一週間くらい椅子に座るのがつらくなるお仕置きと、恥ずかしい体勢でのお仕置き、どっちがいい?」

甲斐が提示してきたのは、究極の選択だった。
毎日ピアノの個人練習は必須だし、バイトでは座ってにこやかにお話しなければならないので、痛みが長く残るのは避けたい。
そもそも手でお尻を叩かれただけで三日くらいは軽い痣が残ることもあるのに、それ以上に痛いのは相当厳しいと思う。
響は一瞬悩んだが、お尻が痛くて練習サボっても叱られるわけだから、選ぶ余地はなかった。
自分から言うのは本当に恥ずかしくて、響は声を震わせた。

「…は、恥ずかしいほうで」
「お願いしますは?」
「恥ずかしいほうでお願いします」

Sスイッチの入った甲斐に逆らっても勝てるわけがないので、しぶしぶ彼の言うとおりに響は復唱した。

「じゃあ膝から降りて、ここに仰向けになって」

響は甲斐に言われるがまま、ベッドに仰向けに寝転がる。叩かれたばかりのお尻がシーツに触れると痛くて顔を歪めた。
そのときだった、甲斐は響よ両足首を左手でひとまとめにして、顔の前まで引き上げた。
赤く染まった響のお尻は天井を向いた。突然のことで、響は混乱したが、下手に動くと甲斐に恥ずかしい部分が丸見えになるかもしれないと、必死に内股に力を入れて両足が開かないように我慢した。

「力んで隠してるつもりみたいだけど、俺からは丸見えだよ」
「やだ…恥ずかしい…みないで」
「恥ずかしいお仕置きを選んだのは響だろ」

顔の前まで両足を掴まれたまま引き上げた状態で甲斐はいつもの強さで響のお尻を叩く。
重力の作用で普段、お尻についている脂肪が背中のほうに下がっているので痛みは強い。
甲斐が右手を振り上げた瞬間、響はぎゅっとお尻に力をいれて平手が落ちてくるのを待った。

あれ?

と思い体の力を抜いた途端、バシンッ!と大きな音と痛みが響のお尻を襲った。

「この体勢、俺が手を振り上げると、響のここがぴくぴくしてぎゅっと締まるのがすぐに見えるから、恥ずかしくて痛いお仕置きができるんだよ」

そんなことを言いながら、甲斐は響の割れ目をさらっと撫でる。

「…ぁ…ん」
「お仕置きしてるんだけど、なんでそんなエロい声だしてんの?」

甲斐は容赦なく、響のお尻の真ん中を狙って平手を連打で叩き込む。

「あぁん…ごめんなさい」

本当は足をバタバタさせて逃げたいところなのだが、足首はがっちりホールドされていて、響には逃げることすらできない。

「自分で両膝の裏を持って」

甲斐は響にM字開脚で膝を自ら抑えさせると、ソファからクッションをいくつか持ってきた。
クッションは響のお尻の下に入れた。そうすると嫌でも隠すことなく響の恥ずかしい箇所は、すべて照明の下で照らされるように見えてしまうのだ。

「響の恥ずかしいとこも赤いお尻も泣いてる顔も全部見れる」
「甲斐くんの意地悪…」
「隠し事したのは響だろ、お仕置きされてるんだから口には気をつけなさい」

甲斐は恐怖と羞恥心でいっぱいの響の顔を見ながら、すでに赤くなったお尻をきっちりと叩いていく。
響も甲斐も、このときの状態の相手の顔を見ることが今までなかったので、互いに新鮮さを感じ、いつも以上に甲斐の支配欲は満たされ、響の羞恥心が原因で意識を失いそうになっていた。
甲斐の平手は、普段当たったことのない響のお尻の割れ目あたりを狙って叩いている。
強さはそんなに強くないものの、恥ずかしくて恥ずかしくて涙がこぼれてきても、膝から手を離すことは許されなかった。

「今日はごめんなさいが全然聞こえないけど、反省できないってことだよな?」
「ごめんなさい。反省してる。恥ずかしくておかしくなりそうなの」
「恥ずかしいお仕置き受けてるんだから当たり前だろ、あと十回叩くから一発ごとに俺の目みて、ごめんなさいって言って」
「…はい」

表情は冷たいが怒りの熱を隠しきれない甲斐は、振り上げた平手のスナップをきかせてエネルギーが分散されないように叩き込むように響のお尻に打ち付ける。

「…っごめんなさい…ごめんなさいい」

響は膝から下の足を少しばたつかせていたが、甲斐は気にすることなく響の左右のお尻を交互に叩いていく。
いくら感情的になっているとは言え、大事な彼女の体を傷つけるわけにはいかないと、叩いているときはかなり真剣に集中しているのだった。

「…ごめんなさいっ…ごめんなさいぃ!」

宣言通り十回叩き終えた甲斐は、大きなため息をつくと、寝転がっている響の隣に寄り添うように横になった。

「足さげていいよ」
「でも、お尻痛いもん」
「なにそれ、俺を誘ってるわけ?」
「な、違うし!ばっかじゃないの!?」
「口の悪い子にはお尻ぺんぺんだな」

眠そうな声になっている甲斐は軽く響のお尻を叩いた。
途端に響はふくれっ面をして、うつぶせに寝転がる。
もちろん痛みと腫れで痛いので、下着はまだあげることができない。

「ねぇ甲斐くん、お仕置きなんだけどさ」
「響に必要だと俺が思ったときにお尻叩くのはやめるつもりないけど、なに?」
「あは…なんでもないですぅ」

響は図星をつかれて言葉を失いつつ苦笑いをした。
甲斐は少し伸びをするとベッドから起き上がる。

「酒抜きたいからシャワー浴びるけど、酔い覚めてるなら一緒に入るか?」
「…いや…恥ずかしいし」
「汗ばんでるやつは床で寝てもらうけど、それでもいいなら」
「私一人でシャワー浴びるって選択肢はないの?」

聞かずとも答えがわかるような質問に、甲斐はもちろんにこやかに答える。

「あるわけねーだろ」
「だよね」
「俺と一緒に寝たくないわけ?」
「そんなこと…ない」

響は甲斐の優しくエスコートされて風呂場に入っていった。
次の日、二人が目が覚めた頃には夕陽が傾いていたのは語るまでもない。

彼と彼女のパラフィリア◆03「彼の気持ち」

女なんか掃いて捨てるほどいる。
と、俺は思っていたが、実はそうでもないらしい。
一般的や普通の恋愛、セックスをする相手には困ったことはないが、それは俺が求めるような相手ではなかった。

キョウコ、いや今は響と呼んでいる彼女に出会えたのは、俺にとって衝撃的だった。
ゆっくり俺のものとして躾けたい。
自分の中で湧き上がる支配欲が高まる異性に出会えたのは、初めてと言ってもいい。

響は俺の三歳年上と泣きながら告白してきたときの、彼女の表情は言葉には言い表せないほど魅力的だった。
そもそも男女関わらず、年上だろうが年下だろうが、自分の感覚に近い相手でないと、関わるのすら面倒に思える性格なので、多分周辺では変人の変態だと思われているに違いない。
女にありがちな理屈を聞き入れない奴や、立場をわきまえない人間は俺の前に現れないでほしいとまで思っている。
セックスのときも、もちろんそうだった。
スパンキングは今までセックスしたすべての女に試してみたが、快く受け入れて、俺の承認欲求を満たしてくれるまでの女には未だに出会えてなかった。
身近で探すより、俺と真逆の欲望に飢えている人間から探すほうが手っ取り早い。
俺の考えは間違っていなかったようである。


──


女性が好きそうなアンティーク感のある森の家をコンセプトにしたカフェに響を連れてきた。
泣きながら仕置きをたっぷり受けた彼女には、堅い木製のベンチに座って食べるランチはとてもつらそうだった。
奥の方には柔らかいソファの席もあるのは知っていたが、自分の心の奥底で湧き上がる加虐心を抑えられず、手前のこの席でいいと俺が勝手に選んだのだった。
もちろん理由らしい理由を言ったが、内心はお尻の痛みに耐えながら過ごす響を見ていたかった。

「甲斐(かい)くんは、一人暮らしなの?家事とか大変じゃない?」
「洗濯も掃除も業者に頼んでるから」
「セレブじゃん!すごいね」
「俺が自分でやるより早いし綺麗だからね」
「私も誰かに頼みたいよ…家事は苦手」

確かに家事は苦手そうだ。ピアノを弾くから料理はあまりしないとも聞いたことがある。
自分の食生活は外食ばかりだし、そういう生活を批難するつもりはまったくない。
そんな日常会話をしながら、響の様子を眺めているだけで、俺は充実した気持ちに満たされていた。
そんな楽しい時間を邪魔するような電話がかかってきてしまった。

「ちょっと電話してくる」
「うん、いってらっしゃい」

響はにこやかな笑顔しながら、座る位置をずらすためかもぞもぞとお尻を左右に動かしていたので、つい彼女耳元で囁いてしまった。

「お行儀悪い子はお仕置きだな」

その言葉を聞かされたあとの響の反応をじっくりと確認したかったが、電話に出るほうが優先だったので慌てて受話ボタンを押す。


──


急ぎで確認をしてほしいという仕事の電話だった。
一旦家に帰らなければできない作業だったので、遅めのランチは早々に切り上げて自宅に戻ることにした。
もちろん響も一緒に連れて帰ってきた。

「わあ。すっごい広いお部屋。グランドピアノ二台は置けるね」

余計なものはすぐに捨ててしまう性分なので、無駄に広い部屋に暮らしているように見えるらしい。
感嘆符だらけの響は放っておいて、俺はPCのモニターがいくつも並ぶ椅子に座って作業を始めた。
声を掛けて邪魔をするのも心苦しいのか黙ってはいるものの、響はソファーに座ったかと思うと、立ち上がり本棚から本を手に取ってみたり、窓から外を眺めたり、とりあえず落ち着きがなかった。

「大人しく座ってろよ。すぐ終わるって言ったろ」
「だって…そのソファー固いからお尻が痛くて」
「響が悪い子だったんだから仕方ないだろ」
「はいはい」
「すぐ構ってやるから」

予想通り確認作業はすぐ終わってしまった。
現在の時刻は午後五時。

「甲斐くんのにおいだぁ!すごい!」

ソファーが固いやら文句を言っては、視界の中をうろちょろされるのが鬱陶しくて、お尻がそんなに痛いのならベッドで寝っ転がっててもいいよ言うと、響は喜んでゴロゴロと寝転がって俺のベッドを満喫している。

「響って見た目は清楚なお嬢さんなのに、中身は本当に子どもみたいだな」
「えっ?それなりにお嬢さんですよ。わたくし!」
「お嬢さんが彼氏のベッドでゴロゴロ寝転がりながらにおい嗅ぎ回ったりしないって。むしろ犬かな」
「失礼しちゃうわ。一応確認をしていただけよ。女性は自分と異なる遠い遺伝子と交配することによって、免疫が強い遺伝子を残す本能が嗅覚で嗅ぎ分けられるようになってると実験でも立証されているんだから」

思わぬところで出てきた遺伝子の話。俺も何かで読んだ記憶がある。
まさか音大生のお嬢さんの口からそんな話題が出るとは思いもしなかった。
響は面白い人だな…と思いながら、ふふっと鼻で笑った。

「俺たち相性がいいって言いたいわけ?」
「…多分」
「確かに、悪い子の響を叱る俺。相性いいと思うわ」
「あ、いや、そうじゃなくってね」
「じゃあどういうことなのか教えてよ。響さんは俺より年上なんだから、そういうとこリードしてくれるよね?」

畳み掛けるように話を違う方向に進めていくと、響は困った顔をしてしまった。

「…甲斐くんって底意地が悪い」
「知ってたでしょ?」
「…そういうとこも嫌いじゃない」
「あー、素直になりなさいってさっきお仕置きされたばかりでその表現はいただけないな。違うでしょ。そういう俺のこと好きなんでしょ?」

少しふくれっ面をしている響と目を合わそうと、響の顎を手で軽く持って自分の方へ顔を無理やり向けさせた。

「……」

顔は俺の方を向けているのに、目だけ合わせないという響の小さな抵抗が俺の加虐心に火をつけた。

「素直じゃないってまたお仕置きされたいの?」
「…今、素直に言ったら許してくれる?」
「俺、底意地悪いから」
「甲斐くんは欲張りだね。そんなお尻叩かれてばっかりだと、私のお尻がいくつあっても足りないよ」

響はそう言うとケラケラと笑いだした。
初めてあったときは、表情に種類のない子だなと思っていたのだが、こんなにコロコロ表情が変わるのかと、今日一日で驚かされる。と同時にどんどん興味がうまれてくる。
つられて俺も笑ってしまった。

「響さん手強いです」
「へへっ」
「でも昨日、練習サボったことはダメだってお尻に言い聞かせないと」
「あと二時間後からバイトなの!お願い、絶対ごまかしたりしないから次のときにして…座り仕事だから、本当につらい」

お尻をおさえながら響は切ない顔で俺を見つめる。
またその表情も可愛かった。甘やかしたくはないけど、今回はかなり厳しく叩いたし、多分それなりに痣になってるだろうから、仕方ない。

「わかったよ。今回は特別な」
「ありがとう!私いい子でいるね」

にこっと笑うと響は、俺の膝を枕にしてお尻の重みを和らげていたので、痛くない程度に数回お尻を叩いてやった。

「…ぁう」
「バイト頑張れよ」


──


付き合い始めてから数日後、約束通り響のお仕置きをするために自分の部屋に呼び出した。

「おじゃましまーす」

部屋に入ってきた響きは感嘆の声をあげる。

「えっ?えっ!どうしたのこれ!」
「どうしたって、買った」

部屋の真ん中にグランドピアノを置いてみたのだ。
家具も少ない殺風景な部屋だったので、インテリアとして見た目がいいかと思い衝動買いしてしまった。
元々余計な物音が気になる性分だから、この部屋に住むときに防音対策は整えてたお陰で、ピアノも存分に弾ける環境にはぴったりだった。

「勝手に練習しにきてもいいし、サボりそうなら監視してやってもいいよ」
「練習しにきてもいいの!?嬉しい!」

響は舞い上がっているのか、あまり人の話を聞いていないようだ。
いわゆる一般家庭にあるアップライトピアノより、グランドピアノのほうが表現が豊かに演奏できると聞いたことがある。
普段からの練習もグランドピアノにするべきだと、音大出の知人に熱く語られてしまったのだ。選択肢はこれしかなかった。
喜んだ響は鍵盤蓋を開けようとしたので、その手を止めた。

「弾くのはお仕置き終わってからね。練習サボる子に弾かせるためにこのピアノを買ったわけじゃないから」
「はあ…」
「すぐ弾きたそうな顔してるし早く終わらせようか。その椅子に手をついてお尻突き出して」
「膝の上じゃないの…?」
「早く言う通りにして」

俺は突き放すように響に言うと、眉間に皺を寄せて一瞬俺のほうを見ると、大人しく椅子に手をついた。
スカートと下着を一気にさげると、その手で響の腰を抑えた。
俺は右手を大きく振り上げて、響のお尻にきつく打ち付ける。

「…痛いっ!」

足を跳ね上げてバタつかせようとしている響を叱るかのように、強めに叩いて全体をピンク色にしていく。

「痛いぃ!反省してるから、許して、ねぇっ」
「反省してるなら黙ってお尻叩かれるもんだろ。それとも全然反省してないってこと?」
「反省してるからぁ…この体勢いやだよぉ」

響がワガママを言いながら地団駄を踏み始めたので、上半身を起こして立ち上がらせると、俺がそのままその椅子で脚を組み座った。

「響が膝の上がいいってワガママ言うから、予定より厳しくするわ」

膝の上に響を腹ばいにして乗せると、組んだ脚のお陰で自然にお尻を突き出すような姿勢になり、響の足は床に着くか着かないかでぶらぶらした状態になった。
さっき叩いていた強さのままお仕置きを続けると、三発目から涙混じりの声が聞こえてきた。
泣いている響を叩きながら、この体勢にすると脂肪が下にさがるのでより痛くできると聞いたが、こんなにも効くものかと感心していた俺は鬼なのかもしれない。

「ごめんなさいっ。甲斐くん、ごめんなさい」

泣いて謝られても、黙ってお仕置きを続けていた。
響のお尻はもうかなり赤くなってきて、抵抗する気力もなくなっていたのか、動かずにお尻を叩かれることを受け入れていた。
ぐすぐすと泣いている声は聞こえているが、その響の声はとても可愛いものだった。

「あと十回で終わりにするね」
「…はい」

ラストを宣言した後の一打一打は、一番丁寧にゆっくりしっかりとお尻に叩き込むことにしている。
力みたくても、力の入らない体勢にしてるため、響へのダメージは大きいようで、叩くたびに小さな唸り声をあげていた。

「はい終わり」

俺が膝からおろすと、響はその場で崩れおちてぺたんと床に座り込んでしまう。

「痛かった!」
「お仕置きだからな」
「……」

軽く頬を膨らませて、つまらなさそうな顔をする響の頭を俺は優しく撫でた。

「コーヒーでも淹れてきてやるから、落ち着けって」
「ミルク多めで!」
「はいはい」

響のオーダーを聞きながら俺はキッチンへ入っていく。

彼と彼女のパラフィリア◆02「彼女の秘密」

「キョウコさん、お願いします」

薄暗い照明の下の革張りのソファで、スーツ姿の働き盛りの男性たちと共に談笑している女性が、黒服のボーイと思わしき男に声を掛けられている。
その女性は、淡い水色のミニドレスで髪は綺麗にセットしているキョウコであった。
スマートに立ち上がると別のスーツ姿の男性が待つ席までボーイに案内される。

「佐々木さん!お久しぶりです〜」

キョウコは佐々木の隣に腰掛けようとしたが、まず手で体重を支えながらゆっくりとソファにお尻をつけた。そのとき少しだね眉間にシワを寄せたが、一瞬の出来事だったので誰も気にすることはなかった。


──


この音大を出るのが私と父の共通の夢だった。
父と同じこの大学を出て、私も音楽で生活していくつもりだった。
五年前、両親を交通事故で亡くしてから、私の人生は一転してしまった。
何もかも一気に失った感覚に襲われてしまっていたのをやっと克服できてきたと思えたのが、ここ最近のことだった。
親の残した遺産は四年間の学費だけですべて消えてしまった。もちろん働き盛りの共働き家庭だったので、生きていればきちんと支払っていける予定だったのだと思う。
私は自力での生活と学業を両立しながら、孤独に耐えて生きていくことができないと感じていたので、両親が亡くなってすぐに休学届を提出した。

そこからはお金を稼ぐことや着飾ること精神的に満足することだけが癒やしになっていた。
大学を休学しても卒業を諦めていたわけではなかったので、お金を稼ぐ目的のために始めたのが水商売だった。

同学年の子は今年二十歳。
私は今年二十四歳。
両親が交通事故で亡くなったことを同情されると、辛い記憶がよみがえってしまうので敢えて四年間休学をした。
説明するのも面倒なので、学校では普通の大学二年生だということにしている。

誰も私の過去を知らない。
本当の私を知らない。

父には音を楽しむという音楽本来の楽しみ方を教わっていたので、コンクールなどとは無縁だったのも、私が知られない理由のひとつだったのだと思う。
もちろん基礎だけはきちんと教えこまれていたので、決して楽しいだけが音楽ではなかった。
グランドピアノを前にすると未だに少し緊張してしまう。
それくらい父の練習は厳しかった記憶がある。

「お名前は?」
「葉山(はやま)響(ひびき)です」

昼過ぎから練習室にこもって練習するのが私の日課だ。
そうは言っても、今日はいつものように練習に集中できる気がしない。
また最近練習をサボリ気味なので、昨夜カイくんからお尻を叩かれたばかりだった。
痛むお尻でピアノの練習をしていると、家族三人幸せだった頃を思い出す。当時はお仕置きされるのが嫌で嫌で仕方なかったが、叱ってくれる存在を失った今は、寂しくて寂しくて仕方ないのだ。

あの日、カイくんから初めてお仕置きを受けた日から、すでに二ヶ月が過ぎようとしていた。
数日おきにメールをしているが、自分から大きな過ちを犯すことはないので、お仕置きされる理由もなく、ただ日常をお互いに語ることが多かった。
とは言え、お尻を叩かれたくてパートナー募集をしたので、やはりお仕置きされたい。お仕置きされる理由を作るように、たまに練習をサボっていた。

やっぱり集中できない。

昨日、お仕置きを受けたばかりで、欲求は満たされているはずなのに、心の奥が締め付けられているように感じる。
もう会ったのは五回目。カイくんと会って話している時間より、お尻を叩かれている時間のほうが長い。
会う回数を重ねる度に、もっと彼のことを知りたい、会って話したい。という欲求が強くなってきている。

これは恋なのだろうか。

音大に進むために中高生の頃から、音楽漬けで生活してきたので、まともに恋愛をした記憶がない。
水商売で声を掛けてくる男は、みんな自分に対して下心がありすぎて、気持ち悪いとすら感じてしまう。
少しいいなと思う男性と何人か、お付き合いをしてみたものの、心の拠り所にはならなかったし、セックスもそんなに気持ちいいものではなかったので、私の異性への興味は薄くなってきていたところだった。

恋だとしても、私には言い出せない理由があるのだ。

酔っ払った勢いでパートナー募集をかけたので、実年齢を話せていないこと。

信頼関係を築いている最中ので、自分にとってマイナスになりそうなことは、かなり言い出しにくい。
お仕置きで済めばいいのだが、嫌われてしまったらどうしよう。それこそ取り返しがつかなくて、どうにもこうにもやれることがなく、モヤモヤを抱くだけしかできなくなっていた。

やっぱり集中できない。
今日は練習サボろう。
お尻痛いんだもん、仕方ないよね。

私は無理やり自分に言い聞かせ、練習室から帰る準備をしはじめたところだった。
聞こえたのはメールの受信音。
特別な着信音に設定しているから、カイくんからのメールだと開く前にわかる。
嘘をついていることと、今から練習をサボろうとしていることが重なって、そのメールを開くのは気が進まなかったが、どうせ後で読んで返事を送るんだ。と勇気を振り絞ってメールを開いてみた。

『練習はちゃんとしてる?
 お尻が痛いからって理由でサボったりしないこと。
 明日か明後日あたりにどこか昼飯でも食べに行かない?』

カイくんは私のことを見透かしているのだろうか。
私が練習をサボろうとしていること、会いたいと思っていること、どちらも言い当てているなんて、まるで千里眼?もしくは運命の人!?
などとくだらないことを考えつつ、スケジュール帳を開いて明日、明後日の予定を確認する。
お昼ならどちらでも予定を組めそうだったので、早いほうがいいと明日を選んでメールを返信した。


──


目が覚めたときにはどちらの時計の針も、床から直角になっている。
…寝坊しちゃった。
急いでカイくんにメールを書くが、どう逆算しても一時間はかかってしまう。待てなかったら帰って下さいと一文を最後につけて、メールを送信した。

最悪だ…。
昨日は、家に帰ってきた記憶が曖昧になるほど、店で酒を飲まされてしまった。仕事だから仕方ないとは言え、次の日遅刻してもいい言い訳にはならない。
いつもはアイロンで髪を巻いたり、ストレートにしたりするのだが、今日は本当に時間がないので適当に高めの位置にポニーテールをし、可愛らしいシュシュで誤魔化すことにした。
化粧は昼間だし、ベースメイクと眉を軽く整える程度でナチュラルメイクにした。

急いで家から飛び出した私は、電車に揺られながらスマホのメール画面のにらめっこしていた。
カイくんは待ってくれているらしい。

怒ってるかな…?
怒ってるよね…?
嫌われないかな…

ネガティブなことしか浮かばなくて、すでに泣きそうな気持ちに襲われている。
カイくんのことだ、泣いたところで簡単に許してくれるわけではなさそうなので、正直に話して謝るしかないと思う。

待ち合わせていた駅の改札を出ると、カイくんが待っている姿が見えた。

「ごめんなさいっ!昨日飲みすぎちゃって…」

カイくんの顔は怖くてまともに見れる気がしなかったので、頭を下げて誠心誠意謝るしかなかった。

「えっ?」

返ってきたカイくんの言葉は、非常に冷たい声色をしていた。
私は恐る恐る頭をあげ、カイくんの顔を見る。
突き放されたような、悲しくなるくらい冷たい目で私を見つめていた。

「昼飯はあとな。話がある」

カイくんはそういうと、私の返事なんて待たずに駅から繁華街のほうに歩いていく。
いつもの歩く速さとは比べ物にならないくらい速く、私がついてきているのかを確認もせずカイくんは前へ前へ歩いていく。
小走りにならないとついていけないほどだ。
カイくんの背中しか見えないが、すごく感情的になっているように見える。
私は一人で引き返す勇気もなく、ただカイくんの背中を追いかけるしかなかった。


──


やはり着いたのはラブホテルの一室。
駅から一言も声を出していない二人の空気は重く暗いものだった。
荒々しくカイくんはソファに座ると、私の方をみて顎を少しあげた。
座れという合図だと思う。
この状態で座れと言われたら、カイくんを目の前にして正座をするしかない。
私は大人しく正座したが、カイくんの顔をまともに見ることはできなかった。

「自分から話して」
「…私のこと嫌にならない?」
「話による」
「…はぁ」

今すぐこの場から逃げたしたかった。出来るなら時間を戻したかった。
もちろん無理なことはわかっている。
やっと安らぎの場所を築き上げられていたのに…。
こらえていた涙が溢れ出てくる。

「泣いても、話すまでこのままだから」

カイくんが怒っている理由はわかっていた。
私がはじめについた小さな嘘が原因。
小さな嘘でもつき続けれぱ、大きく膨らんでいくものだ。
そんなことわかっていた。

カイくんはまっすぐ私の目を見つめている。

「私、カイくんの一個下だって言ってたの誤解されるような表現してました」

カイくんは大学三年生で私は二年生なので、一個下だと話したことがあった。
普通に考えると一歳年下だと思ってしまうだろう。
その時誕生日の話もしていたので、早生まれの私はカイくんには十九歳と認識されるのは至極当たり前の話だと思う。

「私ね、大学入ってすぐ、両親が亡くなって…学費は残してくれてたんだけど、音大って雑費が結構かかるし、生活費も捻出しなくちゃいけないから、休学して働いてたの」
「そう。それは大変だったね…」
「両親の話に触れられるのがつらくて…結局四年も休学しちゃって」
「ふーん…もしかして、俺に年上だってバレたら嫌われるって思った?」

カイくんの直球ど真ん中の質問に、私はゆっくりと頭を垂れて頷くことしかできなかった。
ソファから立ち上がったカイくんは、私の脇に手を入れ立ち上がらせ、手を握ってエスコートすると、二人で隣り合わせになるようにベッドに腰を掛けた。
私の頬に伝っている涙をカイくんの手が優しく拭ってくれる。

「そんなことだったのかよ」
「…ごめんなさい」
「ずっと上っ面なやりとりで、俺に心開いてくれないからさ。むしろ俺が嫌われてるのかと思ってた」
「そんなことないよ!カイくんに嘘ついてたことが心苦しくて…」

カイくんのほうが私に嫌われていると感じていたなんて、私は夢にも思わなかった。
私のついた嘘がお互いを傷つけていたかと思うと、一旦止まっていた涙がまた溢れてきてしまう。、

「さて、この後どうする?」
「どうするって…?」
「キョウコちゃんが泣くくらいの嘘を俺につくわけじゃん。嫌ならこの関係解消しよう」
「えっ?ちがうし。全然ちがうもん!カイくんに嫌われたらどうしよう。カイくんのこともっと知りたいし、私のことも知ってほしいって思ってたから、言い出すに言い出せなかっただけだよ」
「言い訳は聞くつもりないよ。そっちはどうしたいの?」

冷たい表情で強い物言いをするカイくんは少し怖かったし、やっぱり私に幻滅したんだと思う。

「言い訳じゃないけど…やっぱり私のこと嫌いになったよね」

カイくんは小さく舌打ちをして、私の顎に手を添えると突然、唇に柔らかい感触を感じた。

「俺の気持ちわかった?」

突然のキスに目を丸くして、頭が真っ白になっている私を見てカイくんは鼻で笑っていた。
これって要するに何?
カイくんも私のこと好きだってこと!?
こんな急展開になるなんて思ってもみなかったので、私は本当に混乱している。

「俺と付き合ってよ」
「…はい」

私の返事を聞くと、カイくんはニコっと笑顔を見せた。
一緒に過ごして初めて見た笑顔は、少年のような無垢な笑顔だった。

「俺、二宮(にのみや)甲斐(かい)って言うんだけど、キョウコちゃんって本名なの?」
「葉山(ハヤマ)響(ヒビキ)ッテイイマス」

突然の展開に私はカタコトの日本語を話すと、カイくんは笑いながら私の頭を撫でた。

「じゃあ響って呼ぶね」
「う、うん…」

ヒビキと下の名前で呼ばれるのはどれくらいぶりだろう。
お店ではキョウコさん。学校では葉山さん。
今、本当の私を知っているのは、カイくんだけかもしれない。

驚きが嬉しさを上回り、溢れ出ていた涙はいつの間にか止まっていた。
こんな近い距離でカイくんの顔をまじまじと見るのは初めてだったので、つい凝視してしまっていた。
切れ長の目、鼻筋は通り少し薄い唇。男らしいというよりは中性的な美しさがある。

「なにぼーっとしてるの?」
「嬉しくて…」

カイくんと目が合うと自分が赤面しているのを感じた。

「付き合ってもお仕置きはするよ。はい、座って」

私は自分の耳を疑った。

「え…」
「す、わ、れ」

さっきまで笑っていたカイくんの表情は、私が知っているいつもの冷たい表情に戻ってしまっていた。
改めて私はカイくんの前に正座をする。
もう嫌われることはないとわかっているので心は落ち着いているが、一昨日お仕置きを受けたばかりだということを思い出し、まだ叩かれていないお尻はまったく落ち着かないでいた。

「やっぱりお仕置きはするんだよね…?」
「反省してるみたいだから俺に嘘ついたことでは叩かないよ。でも響が泣くくらいの嘘を自分でついたことは許せないかな」
「…?」
「だって響を泣かしていいのは俺だけでしょ?」

カイくんの不敵な笑みが怖かったが、膝をぽんぽんと叩く合図は従わなければいけないという、無言の圧力を私にかけていている。

「悪かったのは誰?」
「…私」
「悪い子はどうなるんだっけ?」
「…お仕置き?」
「わかってるなら、早くおいで」

はぁ…。
私はため息をつくと、ゆっくり立ち上がりカイくんの右側に立つ。右利きの彼が、利き手で私のお尻を叩けるように準備をする立ち位置は、ここ二ヶ月で教え込まれていた。

「もたもたせずに下着おろして準備して」

カイくんは突き放したような言い方で、冷たい顔で私を見つめていた。
私はそろりそろりと下着を膝までおろし、カイくんの膝に腹ばいになった。

「いつも膝に乗るときはスカートの裾はあげて、自分でお尻出すように言ってるよな」

少しは私のお尻をかばってくれるかと期待していた、ワンピースの裾はあっけなくカイくんにめくられ、儚くもお尻は無抵抗に丸出しになってしまった。

カイくんは、赤みが残る私のお尻をゆっくり撫でている。
手が振り下ろされて、お仕置きが始まるまでのこの時間が一番長く感じてしまう。

「響?昨日、練習サボったろ?」

忘れていた。
カイくんとランチができると浮足立っていて、完全にそのことを忘れていた。

「あ…いや…練習はしたよ。少しだけ」
「へえ、この期に及んで誤魔化そうとするんだ…」

ダメだ。やっぱり私は嘘をつくのが下手だ。
カイくんの膝の上に乗って、お尻を叩かれる体勢になっているのに嘘をつき通せる自信なんて、これっぽっちもない。

「まあ今は嘘ついた響のお仕置きが先だな」

とカイくんが言うと、一発目の平手が私のお尻の真ん中を狙って落ちてきた。

「…ぁっ」

声にならない声が出てしまう。
淡々と私のお尻を叩いていくカイくん。

「自分が泣くくらいの嘘ついて、一番つらかったのは響だろ。俺は小さいことで響を嫌いになったりしないから。正直になんでも話すこと」

カイくんの言葉は、孤独という闇に苛まれていた私に差し込んだ一筋の光のように感じた。
優しい物言いと厳しいお仕置きが同時進行していると、安堵感とお尻に落ちてくる痛みで、どちらからともなく涙が出てきてしまう。

「ごめんなさい…ふぇ…ごめん…」
「これからは、俺に甘えていいから。まあ悪い子のときは、こうやってお尻叩いて躾けるけどな」

カイくんの手は同じペースを保ち、私のお尻を叩いている。
優しい言葉と厳しいお仕置きは身体的にも精神的にもだいぶ堪える。心は我慢するつもりでも、体は痛みでお仕置きから逃げようとするのだ。
特に今日はお尻の下の方を手の平ですくいあげるように、重点的に叩かれている。何度も何度も近いところを連打されると、本当に痛くて我慢できなくなってくる。
私はその痛みに我慢できず、思わず自分のお尻を手でかばっていた。

「お仕置きなのに手でかばっていいの?」
「…ごめんなさい。でも痛くて」

私はかばった手でお尻をさすっている。
カイくんはお尻をさすっていた私の手首を左手でつかむと、さっきより強い平手で再びお尻を叩き始めた。

「お尻叩かれてんだから痛いに決まってるだろ」

いつもはこんな強引にしないのに、今日のカイくんの拘束力は今まで経験したことのない強さを感じた。
本気で逃げようとしても、逃げられないくらい強く抑えつけられている。

「…っごめんなさい…ぁあっ…痛いっ…反省してるから…」

私の泣き声とお尻を叩く音だけが部屋に響いていた。
泣いても謝っても、カイくんの右手は休むことなく私のお尻を叩き続けている。
私のお尻は多分、全体的に真っ赤になっていると思う。
じんじんと内側から響く鈍痛と、ぴりぴりとした表面の痛みは、お仕置きの厳しさを物語っている。

「…もう無理ぃ…カイくん…許して…素直になるから…」

やっとお尻を叩く手が止まった。

「わかった。泣いていいのは俺の膝だけね」

カイくんはそう言うと、私の体を起こし膝の上に座らせてくれた。

「泣いて謝ってるときの響は本当に可愛いんだから、俺だけにその顔見せて」

涙で目は腫れてるし鼻も赤くなっているのに、可愛いと言って優しくキスをしてくれた。
ただし、私は下着をさげたままでお尻は叩かれて真っ赤になっているので、ドラマや少女漫画で読んだロマンティックとはかけ離れているような気がする。

なんとなくついてしまった小さな嘘が、私の環境を一転している。
叱られる関係を望んだのは私で、カイくんに叱られたいと思っていたのも私。
寂しさを忘れて、少しずつポジティブに考えられるようになってきたと思う。
その代償がお仕置きか…。
私のことをちゃんと見ていてほしいけど、お仕置きは厳しすぎだと思います。と、カイくんに言ってみたところで、鼻で笑われ一蹴されて話は終わりそう。

あれ、私また何か忘れてるような気がする…。

彼と彼女のパラフィリア◆01「彼と彼女の出会い」

音大在学のキーのキョウコと言います。
最近、色々となまけてしまっていますので
厳しくお尻を叩いて叱ってくれるかた募集します。

──

寂しさを紛らわすために、色々なことに手を出していた。

酒、タバコ、買い物、美容、男。

どれもその時間だけは充実しているような気がしていたが、あくまでその場しのぎとして利用するしかなかった。
どんな人間でも一人は寂しいものだ。
失ってしまったものは、どれだけ自分が一生懸命になっても手に入らないのが自然の摂理というもの。
唯一の肉親であった両親が痛ましい事故で亡くなってから早五年。
一人で生きていける知識や頼れる仲間に恵まれてはいるものの、それだけでは心の中が満たされるわけもなく、ただ毎日をおざなりに過ごしているだけであった。

そんなどうでもいい毎日を過ごしているとき、たまたま目についた単語があった。

『スパンキング』

厳格そうな表情の男性の膝の上で、腹ばいになった女性がお尻を叩かれている画像の説明に書かれていた単語だった。
しかもその女性はスカートをめくられ下着をおろされており、お尻はたくさん叩かれたであろう赤く染まり、表情は苦痛に耐え今にも泣き出しそうであった。

その画像を目にした時、彼女は懐かしく苦く暖かい気持ちが胸を高鳴らしたことに大きな衝撃を感じた。
それからというもの、どうでもいい毎日の中で考えるのは『お尻を叩かれて叱られたい』という欲望で、時間があればインターネットの検索で『スパンキング』について調べて読み耽っていた。

抑えきれなくなった欲望は行動を促す。

突発でパートナー募集をしてみたところ、信じられないくらいのメールが飛び込んできていた。
一通一通丁寧に読んでみると、様々な種類の人がいることがわかる。
SMの入り口みたいな扱いで考えている人。
征服欲を抑えきれていない人。
一人ひとり性格が違うように、性的倒錯も多種多様に渡る。
不思議なものだなと考えながら、読んでいた一通のメールが目に止まった。


──


日曜日の夕方。
渋谷駅のハチ公前という、待ち合わせ場所なのに落ち合えないという難易度の高い場所で待ち合わせをしていた。
ピンクとベージュの花柄の膝丈ワンピースにカーディガン。鎖骨にかかるくらいの長さの黒髪で、誰から見てもお嬢さん風の彼女の名はキョウコ。

今日という待ち合わせに至るまでに、メールで毎晩やりとりをしていた。
お互いの意見を尊重しやすいのか、互いの文章表現がわかりあえるのか、ある程度の長文でのやりとりを続けていた。
一言一言返答を繰り返す短文のやりとりよりも、長文のメールでは互いの個性や考え方、配慮を感じることが出来たので、スパンキングの目的が完全に失われたわけではないが、彼がどんな男性なのかキョウコは彼と会ってみたくて仕方なかったのだ。
キョウコはしきりにスマホを気にしているようだ。
家を出る前に鏡の前で、今日の服装がわかるように自撮りをして彼に送っておいたのだが、この人混みでは会えるのか心配になってきたのだ。

キョウコは不安げな表情をしながら、周囲をキョロキョロと見回していたものの、彼の顔も服装もわからないので徒労に終わってしまう。

「はあ…」

キョウコの口からため息が瞬間だった。
後ろからトントンと肩を叩かれたので、驚きつつ振り向いてみた。

「キョウコちゃん?」
「…はい」

振り向いた先にいたのは、とても可愛らしい男性だった。
身長は日本の男性平均に届かないくらい。少し細身に見える。特徴の中でなにより顔が整っているのが際立っている。

「カイです。はじめまして!」
「……」
「ん?どうかした?」
「大丈夫」
「そっか。じゃあ行こっか」

キョウコはカイと名乗る彼の姿に見とれてしまっていた。
普段の生活で男の人と話したりする機会は多いので、キョウコが男に見とれてしまうという衝動はにわかに信じがたかった。
颯爽とリードしてくれるカイに心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる。

カイと交わしたメールから感じていた、彼のイメージは理知的で包み込んでくれそうな男性像だった。
表現や言葉選びから安心して心を開いて叱られてみたい。
と思っていたのだが…。

色々なことがキョウコの頭の中を巡っているうちにラブホテルの一室に連れられてきていた。

「さて、覚悟はしてきたんだよね?」

ベッドに腰掛けながらカイはキョウコの目を見て話しかける。
部屋に入って立ち止まったまま、まともに目を合わせられないキョウコは俯きながら返事をする。

「…うん」
「もしかして、俺のこと警戒してる?」
「いや、ちょっと緊張しちゃって…」
「そんなこと言われても手加減はしないけどね。でも心配かもしれないから言っておくけど、お尻叩く以外は手を出したりしないから安心して」

そういうことが気になっているわけじゃないんだけど、いやかと言って気になっていないわけではないけど、ただあなたにドキドキしているんですよ。

といくらキョウコが心の中で叫んでも、当たり前だがカイの耳には届くわけがない。
カイはしびれを切らして立ち上がり、キョウコの手首をつかんでベッドまで引き寄せ、腰を落とすと自分の膝の上にキョウコを腹ばいに乗せた。

「大学怠けてること、叱って欲しいんだろ?話はメールで聞いたから、今からは反省する時間だよ」

バシッ!

一発目の平手がスカート越しのキョウコのお尻に当たった。
いくらお尻を叩かれたいと望んでいたとは言え、お尻を叩かれるのは屈辱的な感情と鈍い痛みが伴い、キョウコの心と身体は少し混乱していた。

二発目三発目と回数が重なるごとにカイの力が強くなっている気がした。
女の子のお尻を叩くのが久しぶりだったカイは、気持ちの高鳴りを抑えながらお仕置きしていた。
彼は膝の上に乗せて泣きそうになりながらもお尻叩きを耐えている女の子を愛おしく感じてしまう性分なのだ。
一打一打丁寧にお尻に響くような平手を落とすように細心の注意を払っている。

スカートの上からだとは言え、カイの平手は結構な痛みがあった。
四十回をこえたあたりだろうか、無意識のうちにお尻が叩かれることから逃げようと左右に揺れ始めた。

「動いていいって言ってないけど」

カイの手が止まった。

「ごめんなさい、痛くて…つい」

そんな言い訳をしたところででお尻叩きが許されるわけでも、優しくなるわけでもないことはキョウコも重々承知の上であった。
ただお尻叩きが思ったより痛かったのは事実で、既にこの時点で苦しそうな声を何度かあげていた。

「大学サボってるんだろ?それって良いこと?」
「…ダメです」
「わかってんじゃん。じゃあ悪い子はお仕置きだな」

スカートの上からのお尻叩きで終わるわけがないことは、メールでのやりとりで話し合いをしていた。
敢えてキョウコの羞恥心と恐怖心を煽るために、カイは説教をしているのである。
その説教の効果は高く、キョウコはカイの言葉に絶望を抱き、 しょんぼりと頭をうなだれていた。

「下着おろして直接お尻叩くから、いい子で反省しなさい」

そう言うとカイはキョウこのスカートの裾をまくりあげ、下着を一気に膝までおろした。
キョウコのお尻はすでにピンク色に染まっていた。
男性経験はあっても、丸出しのお尻を叩かれる経験はないので、キョウコの頭の中は真っ白になり、顔は真っ赤になっていた。

カイのお仕置きは一打一打しっかりと平手をお尻に打ち込んでいく。
薄っすらと平手のあとがキョウコのお尻に残る強さで叩いているので、キョウコは動かないよう耐えられるのか自信がなかった。
右、左、真ん中とまんべんなくお尻が赤く染まっていく。

「…ぁっ…っっ…はぁ…っん」

痛みに我慢しているキョウコの声がとても可愛かった。
この声が頻繁に聞こえ始めてからが、カイの中で本番が始まるといっても過言ではない。
今までの叩き方の強さに、手首のスナップをきかせた平手を丁寧にキョウコのお尻に打ち込みはじめた。

「…ぁあ!…ごめんなさいっ…ったぃ…」

すでに真っ赤になっているお尻に、強めの平手で重ねて叩かれるのは、叩かれたいという欲望を抱いていたキョウコでさえ、到底耐えられるレベルではなくなっていた。
動かないように我慢していた足は、キョウコの気持ちとは裏腹にジタバタと小刻み動き始めた。

「動かない!」

バシッ!

お尻を叩いている強さと同じ平手が、キョウコの太ももに落ちてきた。

「ぁあ!ごめんなさいっ!!」

カイのお仕置きは黙々と続いていく。
これ以上厳しくされないように我慢して耐えているキョウコから出る声は涙声になっていた。
自分ではもう十分反省しているとキョウコは思っていても、カイが反省していると判断するまで終わらないお仕置きを泣きながら我慢して耐えるしかなかった。

「…ふぇ…ごめんなさい…ぁあん…ごめん…なさいぃ」

下着をおろして叩き始めてから、とうに百回はこえてしまっているのだろうか、カイの右手はキョウコのお尻と同じくらい赤く腫れてしまっていた。
お仕置き初心者を相手にするときには、加減というものがとても大事だということを知っているカイは、そろそろ切り上げどきかと思い、叩く手を止めた。

「反省した?」
「…はい」
「じゃあ今日のお仕置きは終わり。膝からおりて下着あげていいよ」


──


これが彼と彼女の初めての出会いだった。