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悪風は夏[タクミとアイリ]

一応前後編で書いています。
語源は「悪婦破家」という四字熟語から来ています。
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日差しは強く目に入る太陽のサイズは自分が知っているものより数段大きく感じる。
ジリジリと熱い日差しは、海から流れる潮風と相まって常夏の気分を高揚させた。日本のような高い湿度はないので、汗なのか湿気なのかわからない服が湿っていく気持ちの悪さは一切ない。汗をかいたシャツも外に出れば潮風と日差しで一気に乾いてしまいそうだ。

こんなカップルで来るような開放的で非日常的な島に、なぜか男二人でまばゆい太陽の日差しの下、おしゃれなビーチベッドに寝転ると、雲が少しずつ流れていく様を見つめながら他愛のない会話を交わしている。

「あいつらいつ戻るって言ってたっけ?」
「さあ、起きたらいなかったし、メールでは夕方には帰るって言ってたけど」

180cmはこえているであろう長身で広い肩幅、短髪で目鼻立ちがしっかりとした男がビーチベッドから立ち上がり、長い両腕を天に向かって振り上げたかと思うと「うーん」と大きく伸びをする。

「なあタクミ、もうひと泳ぎするか」

その大男にタクミと呼ばれた男は、熱帯特有の眩しい日差しに目を細めながら、ビーチベッドに寝転がったままで「もういいだろ」と言い捨てる。

「機嫌悪すぎ。せっかくの新婚旅行なんだから、そんな怒んなって」

そう言われたところで、タクミは苦い顔をやめる気はない。

「ヤマトはあいつら、いま何してると思う?」
「さあ?買い物?とか?」

機嫌の悪いタクミをよそに、ケラケラと高笑いをする背丈の高い男の名前はヤマトという。

「はあ……」

つい大きく出たタクミのため息は、親友であるヤマトの耳にも届いだようで「とりあえずコテージ戻るか」と、怒っているタクミに手招きをしつつゆっくりと歩きだした。


──


海上に等間隔で並ぶ、いわゆる水上コテージに男二人。
ハネムーンなのにお互いのパートナーは不在。そんな馬鹿げたシチュエーションが予想外に訪れた二人の反応は真逆だった。タクミは苛立ちを抑えきれずひっきりなしに、体のどこかを動かしてストレスを発散させようとするも、原因が解消されるまでどうにもならないことなので、ただ耐えているようにみえる。そんなストレスを溜めているタクミに反してヤマトはなるようになるさと飄々と過ごしているようだ。

「タクミ、イライラしすぎだって。ちょっと出かけたくらいで、そんなにイラつくようなことか?」
「旅行に来る前に約束したんだよ、色々まわりたいけど俺にはついてきてほしくないとか言うから、それなら4人で行こうってな」
「なんで、アイリちゃんはタクミと出かけたがらないんだよ。すでに仲が悪いとか?」
「んなわけない」
「だよな」

タクミの妻であるアイリがタクミと出かけたくない理由はふたつあった。
ひとつはあれやこれやと見て回っていると、ついてきてくれるのは嬉しいが機嫌が顔に出るのがイヤだということ。
ふたつめは衝動買いをしそうなときは、何度も買っていいのか確認してくること。
その話を聞いて、ヤマトは「ほほう。なるほどね」と笑う。

「なんで笑うんだよ」
「タクミは家でも外でも口うるさいんだなと思って」
「そんな口うるさい?俺が?」
「高校とか大学のころ付き合ってたお前の元カノにも、何度か似たような相談されたことある」
「は?なんだよそれ」
「そして気が短い」
「うるせぇ」

この二人、ケンカをしているように見えるが、昔から軽口の叩ける仲の良い間柄なのである。

「ヤマトはカンナに怒ったりすんの?」
「うーん……ある」

ヤマトの妻であるカンナとは、大学で同じ学部の同じ学年で3人で過ごすことも多く、大学卒業を機に入籍はしたが、仕事が安定する今までは大きな散財は控えるようにしていた。結婚式も写真だけ撮って、今回の旅行もタクミとアイリから誘われなかったら、新婚旅行すらなかったかもしれない。
そんな堅実な夫婦の妻に何を怒ることがあるんだとタクミは疑問に思ったが、いつも簡単に口を開くヤマトがあまり話したくなさそうなオーラを出していたので、これ以上追求することはやめた。

バタバタ、ガタンっ

大きい音を鳴らしながら、リゾート地を楽しんでいるカラフルなワンピースを来た二人の奥様方がコテージに戻ってきたらしい。

「ただいまー」

アイリは持ち前の愛嬌のある声と、その物音は両手で抱えきれないほどの荷物を持って戻ってきたことを知らせる。
タクミはそんなアイリの顔も見ずに、ただ黙ってソファに座り左腕は肘掛けにかけ、頭を手でささえていた。
体のありとあらゆるところから、機嫌の悪さを醸し出しているタクミを見て、アイリはシュンとした表情を見せながら、一緒にいるカンナとヤマトの顔色ものぞいてみる。
なぜかヤマトも機嫌の悪そうな顔をしていたが、そのヤマトの顔を見ているカンナの顔もアイリと似た落ち込みせていて、楽しいはずの新婚旅行の水上コテージの一室は異様な空気が流れていた。

「ヤマト、カンナ、ごめん。俺コイツにお仕置きするから、お前らのコテージ戻ってもらってもいい?」
「ちょ、タっくん、なんで!」
「アイリは黙ってなさい」
「タクミ、あんまり厳しくアイリちゃんに言い過ぎるなよ、成田離婚になったら笑えない」
「じゃあまた後で夕食のとき電話する」

カンナは自分の手に持っている荷物をそのまま持ってタクミたちのコテージを出ようとしたら、さっとヤマトがその荷物を取り上げて持つ。
「ちょっと」
「持ってやるよ」
「いいってば」
そんなやりとりが見えたあと、バタンと小さい音がして入り口である玄関の扉が閉まったようだった。

「で」アイリの目を見つめてタクミは呟く。アイリはそんなタクミとは目を合わさないように、キョロキョロ周囲を見回している。

「アイリ、約束やぶったらどうするって言ったっけ?」

ソファに座ったままのタクミは、立ちすくむアイリに穏やかな声で話しかける。
「え」と間を置きながら、色々頭の中をめぐらせて考えをしぼるアイリにタクミは追い打ちをかける。

「答えないなら数、増やそうか」

その追い打ちは、アイリにとってとても重みのある言葉だったので、少し時間がかかったが答えを出すことができた。

「……お仕置き?」
「そう」

うんとタクミはひとつ頷く。
そんなタクミを見てアイリはとっさに驚いた表情を見せて「今?」と聞く。はぁ?と言わんばかりの顔をして「当たり前だろ」と答えるタクミ。
タクミの言葉を聞いたアイリは、我慢できずその場で地団駄を踏む。

「やだぁ……せっかくの新婚旅行なのに」
「……」
「日本に戻ってからにしようよ。今はやだ!」
「……」

ごねて文句を投げ捨てるばかりのアイリに業を煮やしたのか、タクミは立ち上がりアイリに近づく。タクミに近づかれてアイリはとっさに後ずさりするが、すぐ後ろには壁がありこれ以上逃げられそうもない。タクミはアイリの左手首をぐっと握り、思いっきり自分の左のほうへ一気に引き寄せる。アイリはその勢いに勝てず、引き寄せられるとそのままタクミの左腕を腰にまわされ、思いっきり手を振り下ろされた。パンッと少しくもった破裂音がなると、アイリは「やだぁ!」と声をあげる。タクミとアイリの中でお仕置きと言えば、お尻を叩くことなのである。

「やだやだやだ!」

アイリは足をばたつかせ必死に逃げようとする。アイリの腰を左腕でがっちりとホールドしているタクミの手際の良さをみると、普段からどんなやりとりをしているのか容易に想像できる。

「俺は約束をやぶるほうがいやだな」
「痛いもん」

タクミから顔が見えない体勢をいいことに、アイリはペロっとしたを出す。そんなふざけたアイリの姿など見えてもいないはずだが、タクミはわかっているかのように腰に抱いたアイリをそのまま抱き上げた。

「え、ちょっとぉ!」

いわゆるお姫様抱っこ状態になったアイリは少し恥ずかしくなり、足をバタバタ動かしてタクミの肩をポカポカと叩いた。

「いい子にしてろよ」

ムスッとした表情のまま、タクミはアイリを抱き上げてソファのほうに移動し、ゆっくりと優しく下におろす。床におろされた途端、アイリは頬をぷくっと膨らませ「アイリいい子だし」と強く言い返した。

「約束やぶって勝手に出かけたアイリが?いい子?」

「へぇ」と言わんばかりの表情を見せながら、三人がけくらいのサイズだろうか、日本のリビングにあったらきっと存在感がありすぎる。そんなサイズのソファに腰掛けタクミは彼自身の膝をぽんぽんと2回叩いた。
これはいつもの合図。

お膝に来なさい。

アイリはタクミにそう何度も嫌になるくらい、その合図でお仕置きを受けてきた。いくら逃げても、言い返しても、なにをどうしてもお仕置きはお仕置き。その状況が一転することは今まで一度もなかった。

ぽんぽん

二度目の膝を叩く仕草をみせるタクミ。これはもう逃げられまいとアイリは観念し、一歩ずつ足を前に出す。ソファに腰掛けたタクミの膝の上にゆっくりと腹ばいになる。

「自分でお膝に乗れるなんて久々だな」

珍しく従順なアイリを目の前にして、タクミは思わず口を開いたが決してイヤミで言ったわけでなく、驚き半分嬉しさ半分の感情を抱いていた。

「うるさぁい!」

叱られているのに、突然褒められるような言われ方をすると恥ずかしくなってしまい、アイリは大きめの声でタクミの発言をかき消した。

「へぇ、そんなこと言える立場じゃないだろ?」
「だって」
「お仕置きなんだから大人しくしなって」
「やなんだもん」
「約束やぶったらアイリが悪い」
「そうだけど……」

バシンとまた曇った音が聞こえる。
ゆっくりと1発アイリのお尻にきっちりと平手が叩き落とされた。

「いたっ」とアイリは思わず声をあげるが、何を言っているんだとやれやれと言わんばかりの表情のタクミは「服の上からだと全然痛くないだろ」と言いながら、ワンピースのスカートを裾から思いっきりめくりあげた。

「ちょっと!やだって!!」

アイリは必死に抵抗するも、そのまま一気に下着までさげられてしまう。

「やあ!無理ぃ!!!やめてよ」

アイリの必死の抵抗はまだまだ続いている。
両手でお尻をかばおうと動こうとするが、タクミの左手はきっちり彼女の両手首を抑えつけ、お尻は彼の股の間に挟まれるような体勢に、アイリの気づかない間に一気にセットされていた。

バッシィンと皮膚と皮膚がぶつかり合う破裂音がしたかと思うと、アイリの金切り声とその打擲音が聞こえるだけの空間が広がっていた。
タクミは既に説教をする気はそんなになかった。嫌がるアイリにお仕置きをするのは、正直心が傷む。可愛い妻にそこまで痛い思いをさせて、お仕置きするなんてと思ってしまう考えは片隅には残っている。
だが、これからもずっと彼女と一緒に過ごしていくことを考えると、良いことと悪いことの判別をお互いにすり寄せてルールを作るべきだと考えている。もちろん自分たちが守れる範囲で、提案していって毎回話し合いとまではいかないが、それなりに話してふたりの生活を、より良いものにしていく。

「いったいぃぃ。ねぇ!!タクミ無理だよぉ……もうダメ……」

そんな可愛らしいアイリの嘆きの声は耳に入っているものの、まだまだタクミは許すつもりはなかった。
ふと頭をあげると今時計は16時半を指していた。

「ずっと叩くかどうかはアイリ次第だけど、今回のお仕置きは5時までね。いい子だったら早く終わるよ」
「え、あと30分もあるじゃん!無理!!!」
「無理かどうかは聞いてないから、反省しなさい」

結局そこからはバシンバシンと痛々しい音だけが部屋中に鳴り響く結果となった。
このあと18時からは4人で仲良く夕食を食べる予定でいるが、果たしてアイリは、座っていい子にご飯を楽しめるのか甚だ疑問ではある。

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次回はヤマトとカンナ編です。お楽しみにお待ち下さい。

大抵抗

※フォロワーさんが目撃した、街角のとあるカップルのやりとりから妄想をこじらせた結果の小説です。



ゴールデンウィークは過ぎ、次の祝日はまだまだ先の梅雨前。日本人なら誰しも一番つらい5月病にも襲われているような、5月の最終週。
夏の日差しがたまに覗く昼間は、乾いた風が心地よい本日は日曜、絶好のお出かけ日和だ。
待ちゆく人々は夏の準備か、アパレル系のショップ袋を下げている人が多い。街はいつの間にか春から夏に、インテリアからファッション、人々までもが季節を変えていた。

そんな景色なんて、私の目には入らない。

「もぉやだぁ!」

普段の三倍は大きな声をあげ、私は拒絶していた。
私の右の手首は彼氏であるミズキくんの大きい手でぐいっとつかまれ、街のはずれのほうへいやいや引っ張られているのだ。
こんな街の真ん中で大きい声出して、迷惑だって思わせたい。
やだもん、だって。

「ダメ」

そんな私の企みは、彼が簡単に一蹴してしまう。
いつもそうだ。
でも、今日は本当にいやなの。
行きたくないし、手だって痛いし。

「もぉお!離して!」
「離さない」

ミズキくんの手を離させようと、掴まれていない左手でバシバシと彼の左腕を叩くが、彼の引っ張る強さと歩く早さについていかなければ、思いっきり転んでしまいそうで無理やりついていくしかった。

「いやだぁ!!」
「いやだってば!!!行きたくないの!」

自分の意思で止まることのできないこの流れを変える方法はひとつしかないと思い、出来る限り彼氏にいやだとアピールをした。
私のアピールが届いたようで、ぴたっと彼氏の足が止まった。

「ソラ、静かにしなさい、我儘がすぎる!」

許してもらえると思って顔が緩んだ私に、振り返り言ったミズキくんの顔つきは厳しいものだった。

「やだやだやだ!」

静かにしなさい?
我儘?
勝手に進めてるのはミズキくんのほうでしょ!

「行きたくないって言ってるじゃん!!」

抵抗する声は一層大きくなるばかりだ

「ねぇ!!!聞こえてるんでしょ?」

絶対に聞こえているはずなのに、ミズキくんの足が止まる予兆はまったく見えない。

「大きな声出さないの、みんな見てるのに恥ずかしいよ?」

さっと振り向いて私に話しかけた彼氏の顔は、今まで外で見たことのない冷たい表情だった。
ミズキくんのそんな表情を外で見てしまったら、そんなに大きな声を上げて抵抗しても仕方ないんじゃないかと思えてきた。

私がそんなに嫌がってるのには理由がある。
今から連れて行かれる場所は、いわゆるラブホテル。
なんだ、エッチなことを期待すればいいだけで、彼氏は優しくしてくれるよ。怖くなんてないよなんて、考えは本当に的はずれ!

私は彼氏のミズキくんから、我儘を言ったり約束をやぶったりするとお仕置きをされる。
お尻を叩かれるお仕置きだ。

お仕置きされるのがいやだと友達に相談したこともあったけど
「お仕置きって言うからつらいものなのかと思ったけど、ただのお尻ぺんぺんじゃん。少し我慢すればいいだけでしょ。お子ちゃまなソラにはピッタリのお仕置きじゃん」
と親友は笑う。私としてはかなり恥ずかしい相談だったのに結局、なんのアドバイスも得られなかった。

ミズキくんのお仕置きは、お尻ぺんぺんという表現ではすまないかなり厳しいもので、今日このまま連れて行かれるホテルでは、私が泣いて謝るまで絶対に許してはもらえない。
そんなつらいお仕置きが待っているのがわかっているので、少しでもそんな負担を減らそうと反抗したのが、火に油を注ぐ結果となってしまったみたいだ。

大きいベッドが真ん中に存在感を出しているホテルの一室。その大きいベッドの端だけしか使っていない私達は、ホテルの客としては上客なのではないかと思ってしまう。

「どうしてお仕置きされたの?」
「……」
「ソラ、ちゃんと答えなさい」

彼氏のミズキくんの膝の上に腹ばいになった状態で、スカートをめくられ下着は膝までずり下げられ、すでに真っ赤に腫れ上がったお尻をぽんぽんと軽く叩かれた。

「我儘……言った」

ホテルについた途端、うちの厳しいミズキくんは、自分で下着をさげて膝に乗りなさいと指示した。ホテルに連れて行かれる事自体を抵抗していた私にそんなことをできるわけもなく……。結局、ミズキくんに無理やり膝の上に乗せられ、ぐいっと一気に下着をおろされ、はじめから強いの平手でお尻を叩かれはじめたのだ。
そんなスタートからはじまったお仕置きは、いつものお仕置きよりも厳しく、数は数えていないけれど軽く10分以上はバシバシと強めの平手で叩かれ続けていたと思う。

「そう。我儘言ったらお仕置きだから、これからも」

……えぇぇぇぇぇぇ。

そう言えるのは心の中だけ。
怖くて厳しい彼氏には「はい、ごめんなさい」と言うしかなかった。

好きなこと

自己紹介代わりに好きなもの羅列してみる。

ユーリ on ICE!!!(ユーリ❤推し)
USJ
ハリポタ
サンホラ
貴志祐介
三島由紀夫
小野不由美主上
キングダム
梶浦由記
阿修羅像
桜🌸
ビール🍺
ラーメン🍜
初夏のにおい
福田雄一
ポケモン
ゲーム・オブ・スローンズ
BONES
クリミナル・マインド
メンタリスト
ホワイトカラー
明智小五郎
シャーロキアン
乗り鉄
料理
ピアノ

めっちゃ私だってわかる。
スパだけじゃないけど、話に入れられるものが少ない。

でもだって

ベッドとソファがおいてある一室。建物の外観はいわゆるラブホテルと言われるような街の風景にそぐわない派手な赤色をしている。ホテルの名前にはファッションホテルと頭についていて、ラブホとは少し何かが違うのかもしれない。そんな名前など気にしている人間が利用することはあまりなく、疑問に思うことすらないだろう。

部屋は薄明かりのみで、ソファに手をついて尻を突き出した20代半ばだろうか、どちらかといえば綺麗系といわれる女と、革のベルトを半分に折りたたんで両端を手に持ち振り上げ、彼女の尻に思いっきり打ち下ろしている長身でスリム体型の男がいる。
女の上半身は着衣をしているが、下に穿いていたであろう服はふくらはぎから足首にかけて絡みついており、下半身は丸出しになっている。

「8」

男の声は低く冷たい。
まるでモノをカウントしているかのような、つぶやきに似た物言いのあとすぐだった。ヒュッとベルトがしなる音がしたかと思うと、その後すぐにビシィッと革と肌がぶつかり合う、耳に慣れない音が鳴る。

「はちひぃぃ」

一生懸命に耐え、数をかぞえることに集中している彼女の尻は、すでに平手でうんと叩かれたのか、ベルトの痕の下は尻は全体が赤く腫れている。元の肌の色がわからないほど真っ赤に染まっている尻は、さわるだけで熱をもっていそうだ。

ベルトで叩くと、肌の表面が一瞬で苛烈な痛みと熱を与える。
次の一打がくるとわかっているので、力んで切れ長の綺麗な目元はぎゅっときつく閉じられている。

「9」

女は「ひっ」という我慢していても、つい声が出てしまう。

「……き、きゅう」

男の手が止まった。
手が止まったとはいえども、決してお仕置きが終ったわけではない。
一般的には聞こえる声でも、彼が指示を出した「はっきりと数える」が出来ていなかったので「聞こえない」と冷たく言い捨て、さっきより一層痛そうな音が部屋に響く。

「き!きゅう!!」

女は「聞こえてるだろうに、意地悪な奴」と言わんばかりに大きな声で九つ目を数えた。

彼女がお仕置きされている理由は、とても可愛らしいものだ。ここまでひどく赤くなるまで尻を腫らして、目には涙を浮かべさせてまで反省を促すほどではない。
ただ彼らの約束事では、彼女が悪いことをしたら彼が尻を叩く。いわゆる躾でのお仕置きが存在する。そんなちょっと普通と違う関係である中、彼らは恋人としてお付き合いを続けている。

「っじゅうぅ!」

最後の一打だったのか、彼女は大きな吐息とともに、はっきりと10を数えた。はぁはぁと肩で息をしているのが、目に見えてわかるが、彼女はまだ動こうとはしない。無惨にも赤く染まった尻を今すぐにでもさすりたいと女は思っていても、まだそんな勝手な行動は許されないらしい。

「コーナー。そこに立って」

男はソファの隣の壁際を指差す。
コーナータイムを言い渡された彼女は、彼の指示通りにソファの脇に壁に向かって立つ。
コーナータイムとは、文字通り部屋の隅や壁際で過ごす時間のこと。この指示を受けたときは、尻をさすったり余計な動きをするのすら許されず、ただ立って反省をするしかできないので、精神的にかなりつらい時間だと言える。

「なんで今日はお仕置きになったの?」

壁しか見えない彼女の後ろをゆっくりと歩いている彼の気配だけを感じる。
「そんなのさっきから何回も言ってる……」と心の中で思いながらも、反抗してこれ以上お仕置きが増えるのだけは避けたいと、女はさも反省しているかのように真面目に答える。

「仕事……休んだ」

真面目に答えているつもりなのに、彼からのきつい平手がバシッと尻に叩き込まれる。

「ちゃんと言いなさい」

悪かったのは、お仕置きされた理由は女自身も馬鹿だなと、自分なりに反省はしている。
ここ1ヶ月近く彼の仕事が忙しくてなかなか会う時間がとれなかった。彼がたまたま時間が空いて休みになった本日、週のはじめの月曜日、業を煮やした彼女は思いつく理由を全部並べて、ワガママ言って困らせて、無理やり彼の休みに合わせて仕事をズル休みしたのだった。

それを聞かれたのに、まだ彼女は

「でも、仕方ないじゃん……反省はしてるけど」

こんな調子の言い訳が続いている。
コーナータイムだからか、彼の表情が見えない分、彼女の言い訳もヒートアップしてきた。
彼は足を止め、はぁとため息をひとつ。

「もう一回はじめからお仕置きやり直しだな」
「……はぇ?」

予想外の発言が聞こえたようで、彼女は目をまん丸くして彼の方を振り替える。
彼の表情はいつも以上に冷たく、見ているだけで怖くなるようなオーラが見えるような気がした。

「えぇ……反省してるって」
「そんな風にオレは躾けてるつもりはない」

涙ぐみながら彼女は彼の怒りを鎮めようとするが、何を言っても無駄であろう空気が部屋中に広がっている。

「悪いのは誰?」
「ワタシ」
「そう、キミだろ」

また、ベッドに腰掛けた彼の膝の上に腹ばいになるように指示され、大人しく従うほかなかった。
またイチからお仕置きなんて……すでに彼女の尻は平手で300近くは叩かれてるはずなのに。恐ろしくてこのあとのことは想像できなかった。

「お尻痛くて明日も仕事休む!座ってられない!!」

ビシバシ容赦ない平手が、真っ赤な尻をより赤く染めている間に、彼女が投げやりに叫ぶ。

「そんなことしたら、一週間は座るたび思い出すくらいお仕置きする」

ハハハっと軽快に笑う声と、容赦ない平手が尻を叩く音が部屋中に響き渡る。
お仕置きはまだまだ終わらなさそうである。

約束◆02「弱点」

突然の雨にいい思い出はない。
せっかくセットした髪も濡れてしまえば風呂上がりと変わらない。
最悪なのは化粧まで落ちてしまい。微妙に残ったアイシャドウやアイライナーが目の周りでにじみ、化粧直しをしようにも、一度全てのメイクを落としてから、やり直したほうが良いのではないかと思うくらいの豪雨に見舞われたときだ。
夏で熱くなってしまったアスファルトを一気に冷ます夕立は、悪いことだけではないので嫌いになれない。

突然の思いつきで始まった、二人の生活は予想外にもうまくいっていた。
メイコはどちらかといえばズボラな性格で、気を遣うタイプのユウリとはお互いに気にならない距離感で過ごせていた。

「メイコさん、おかえり。水買っておいたから」
「ありがとう!助かる」

帰宅してすぐの疲れた表情と、返事の明るさは真逆の反応だった。自炊をすることもなく、必要最低限をコンビニで買うだけの生活を送っていたメイコだが、ユウリのおかげでそんな堕落したメイコよ生活にいい変化がみえるようになってきた。

「わー!ご飯!」
「常連さんだから、食生活知ってたし、さすがにあの食生活は良くないと思って……」
「そんな食生活送ってて恥ずかしいけど、この料理は嬉しい」
「なんで自炊しないの?」
「昔はしてたよ。でも一人分なんて作るより買ったほうがいいじゃん」
「確かに。二人分になると作り甲斐あるよ」

テーブルに並んだ料理は、リーズナブルで簡単に作れるものが並んでいた。ユウリもそんなに力をいれて作ったわけではないので、メイコの喜びっぷりに少し驚きながらも照れた顔を見せた。

「あっ!ビールがない……」

ユウリの手料理にルンルン気分のメイコは、冷蔵庫を開けて悲鳴にも似た悲しい声をあげる。

「さすがに未成年は酒の買い置きできないよね」
「さすがに未成年はねぇ」
「成人しても買いませんけど」
「え、そうなの?」
「俺が冷蔵庫にビール買い置きしはじめたら、メイコさん俺頼みになっちゃいそうだし」
「ははは、わかる」

そんな会話をかわしながら、メイコは手早く部屋着に着替えて、胸まである髪はシンプルにひとつにまとめる。ユウリは盛り付けたあとのすでに使われたフライパンやボウルを手際良く洗い、食後の片付けの負担を減らすよう、先に片付けているようだ。

「ユウリくん、料理上手なんだね!」
「まあね」
「店では調理してないのに、どこで覚えたの?」
「ちょっとね」

ただの世間話程度の話題なので、メイコは深く考えずにユウリに問いかけるが、彼ははぐらかす。

「あー女か。そうだよね、彼女くらいいるよね」

うんうんと自分の発言で、勝手に納得するメイコ。
そんな彼女の考えは大きく外れたのか、ユウリは一刀して言う。

「いや、女ではない」
「じゃあなに?」

料理を作って出迎えてくれた、さっきの暖かいムードから、少しピリッとした空気に変わっていたが、そんなユウリの反応が物珍しかったので、メイコはつい深入りしてしまいたくなった。

「ナイショ」

メイコの好奇心は、店でもよく見かけていたので驚きはしなかったが、これ以上の深入りは望んでいなかったので、ユウリ上手く話を終わらせるためにニコッとメイコに微笑みかけた。
つまらないという感情が顔に出ていたメイコだが、人には話したくないことが1つや2つあるものだと、自分を含め知っているので、ここは大人しく黙ることにした。

「明日、俺仕事だから」
「あ、そうだね水曜だし」
「こんなメシで良ければ、メイコさんの分も作っておくよ」
「いいの?助かる!」
「色々お世話になってるし、お礼だから」

放っておいても、なんとか一人で生きていけそうな空気を漂わせるユウリだが、与えられたことに対して感謝の気持ちを見せる行動は、彼の中で何が動いているのかもしれない。メイコには予想もつかないが、嬉しく感じてはいた。


──


メイコの夕食に用意されていたのは、トマトとバジルの冷製パスタ、チキンと野菜がたっぷり入ったコンソメスープ。
バジルはまだ育ちきっていない柔らかな食感で、パスタは作ってから時間が経ってもおいしいように、オイリーにしあげてあった。
いつもより帰宅が遅かったので、遅い夕飯となったが一人で食べる夕飯はやはり少し寂しい。そう多いながら食べていると、いつの間にか用意されていた夕飯をすべて平らげていた。

「ふぅ……ごちそうさま」

メイコは一人分の食器をキッチンのシンクに運んで、残っている洗い物をあわせて片付け始めた。
ユウリは週3で駅前のイタリアンで働いていて、それ以外の日はほとんど家にいるのでメイコが完全に一人になる時間はかなり少ない。もともと一人が好きで一人暮らしを続けているわけじゃないので、人がいるというだけでそんな寂しさも和らぐ。

時計を見るメイコの表情はストレスなのか、イライラが見える。ソファに座ってテレビを見ているように見えても、しきりに時計を気にしている。

「遅い」

時計を見たあとはスマホを確認する。その行動を数分おきに繰り返していた。
現在午前1時半。
ユウリが普段、帰ってきているはずの時間はとっくに過ぎている。
はぁと大きくため息をひとつ。深夜のリビングにはテレビから聞こえるバラエティの笑い声と、自分の大きなため息が響くだけだった。
帰りがいつになるかわからないユウリを待ちたいと思う気持ちはあるが、明日の仕事に影響があると困るので、ここは一旦諦めて施錠をしっかりと確認し、一人で床につくことにした。


朝目が覚めて、いつも通り顔を洗い歯を磨き、ヨーグルトを食べたが、ユウリの姿はなかった。

どういうことなんだろう。
うちが嫌になったのかな。
また一人になるのか。

朝からネガティブな考えがよぎるが、社会人はそんなことを言ってはいられない。それなりに経験を積み重ね、女であることを不利だとは思わず仕事をこなしてきた自分には、こんなことは大したことではない、メイコは自分自身に言い聞かせた。

「はぁ」

とは言え、大きなため息は出てしまう。
結局深夜の2時頃までユウリを待っていたので、睡眠不足の顔はなかなかひどいものだった。

「……ブス」

メイコは思わずつぶやく。鏡に写った自分の姿は、悲しいくらいに年齢を重ねているのがわかる。
ため息ばかりついても仕方がないと、いつものように化粧をはじめ、いつも通りに準備をする。
少し頭がぼーっとするが、朝は職場でコーヒーを飲んでから目を覚ます習慣になっているので、そのまま服を着替え靴を履く。
玄関の扉をあけようとしたときだった。
何かが扉をの前にひっかかって、途中までしか開かない。

「え、なんで」

何がなんだかわからずパニックになりながらも、メイコは思いっきり体重をかけて扉を押した。
ガンという音とともに

「って」

という声が聞こえた。
メイコは眉をひそめた怪訝な表情をする。

「……ユウリくん?」

まさかと思いながら、さっきよりは動かせるようになった扉をあけた。
そこには何にも囚われてないような、無垢な表情ですやすやと眠るユウリが転がっていた。
寝ているというより転がっていると言ったほうが正しい。
そういい切れる見事な寝方だった。
メイコはイラッとしながらも、とりあえず起こさなければと思いユウリに近寄ってみる。

「ユウリくん、ねえ、起きて!」

ユウリの体をゆさゆさ揺らしながら、声をかけてみるがあまり反応がない。
いやいや、そんなわけないでしょう。と思い、メイコは出せるだけの力を出し、思いっきり揺さぶってみた。

「ん」
「ん、じゃないでしょ!起きなさいぃぃ!」

メイコは少し反応を示したユウリの両頬を思いっきり横に広げるようにつまんだ。

「いたい……」

メイコは思いっきり引っ張っているつもりだが、ユウリは眠気に勝てなかったのか目をつむったまま呟くと、メイコの手を振り払い、玄関前にも関わらず華麗に寝返りをしてみせた。

「はぁ……とりあえず家に入りなさい。私は仕事行ってくるから」

手を枕代わりにしてうつ伏せ状態になっているユウリの尻をふりかぶった平手でバチンと叩くと、メイコは立ち上がり仕事に向かうためその場を去っていく。

「いたい……」

思いっきり綺麗に平手打ちが決まったらしく、ユウリは意識が戻るくらいに目が覚めたようだ。
目が覚めただけであって、まともに動けるほどではなかったようで、すくっと起き上がるとのそのそ動いてメイコの家に入りそのままソファで寝てしまう。


──


「さて、今朝のあれはなに?聞かせて」

メイコの機嫌をとるかのように、少し手の込んだ料理を並べた食卓に少し冷たい空気が流れ込む。

「うーん……」
「心配したんだよ、理由くらい言ってよ」
「心配かけたのは悪かったと思ってる」
「本っ当に!心配したの!!」
「ごめん」

普段はニコニコしているイメージのあるメイコが感情的になって、自分を心配していると頬を紅潮させ話す姿は、ユウリにとって強いインパクトを感じた。

「昨日はね、飲まされたの」
「飲まされた?未成年なのに?」
「あと3ヶ月で成人なんだから、堅いこと言わないでよ」
「それは……無理かな」
「まあ、別にどっちでもいいんだけど」
「飲んだら玄関の前で寝るのに、どっちでもいいわけないじゃない」
「俺、超酒弱いの」
「はぁ……」

話を聞いてみると、昨日店を閉める前に常連の酔っぱらいに帰らないとごねられて、ユウリが飲んだら帰ると追い込まれたらしい。その常連はカジさんと言って、少し面倒な性格をしていてメイコはあまり得意ではない。むしろ苦手で、彼が酔っていると感じるとさっと勘定を済ませて帰ることもしばしばある。

「カジさん、私も苦手」
「俺も」
「でもちゃんと断りなよ。二十歳になってお酒飲めるようになったら、どんどん飲まされちゃうじゃん」
「そうだよね……」

メイコも流されやすい性格だが、歳を重ねている分いろいろな経験で逃げられることを知っている。ユウリも流されやすいと感じ取ったので、とりあえず断ることをアドバイスする。メイコの言うことにユウリは、うんうんと頷いているので、彼女のアドバイスは聞き入れているのだろう。

「あと」
「うん」
「未成年が飲んじゃダメ!」
「へー、メイコさんそういうとこ厳しいんだ」
「私も昔、それでやらかしたことがあってね……」


──


「未成年が酒飲んじゃダメだって、こないだ叱ったばかりだけど」
「だって、みんな飲んでるのに、私だけ飲まないのはあり得ないじゃん!」
「悪いと思ってないってこと?」
「でもさぁ」
「でも?」
「素直に謝りもしないなら、今日は厳しくする。今すぐブラシ持って寝室においで」
「え、ブラシ無理」
「数増やされたいなら、好きなだけごねていいよ」
「待って……聞いて」
「未成年がお酒飲んでいい理由なんてないから聞かない」

高めの位置にひとつ結びにしたポニーテールが揺れる。
ベッドに腰掛けた彼の膝の上に腹ばいになっているメイコは、首を横に振って嘆いていた。

「お仕置きやだ、痛いもん」
「メイには痛いお仕置きじゃないときかないでしょ」

かなりの攻防戦があったのか、メイコの両手はタオルで縛られていた。それでも逃げ出そうとしたのか、スカートの上からバシンバシンと平手が落とされていた。

「もう許してよぉ……二十歳になるまでお酒飲まないからぁ」

膝の上で足をばたつかせながら、メイコは泣きそうなふりをして謝っている。

「そんな嘘泣きしても無駄だって。泣いても許さないから」

彼はメイコのスカートをまくりあげ、一気に下着を膝までおろす。買ったばかりのおしゃれで高価ショーツを無駄にしたくないというメイコの乙女心を読んでいるのか、一気に脱がさずに膝で止めたのは、足をばたつかせないようにするためらしい。すでに叩かれているお尻は少し赤みを帯び、薄ピンクのような色を見せていた。
平均的な体型のメイコと比べかなり大柄な彼は、メイコの体をたやすくがっちりと押さえ込む。
メイコの腰をぐっと押さえると同時に、振り上げた手がメイコのお尻めがけてバッシィンと大きな音を立て打ち込まれる。

「あぁっ!」

メイコは声をあげ、大きく頭をはねさせた。彼の1打はメイコのお尻に綺麗に手の痕をつけている。
この調子で2打3打と、手をゆっくり振り上げて落とすペースでお尻叩きは続く。

「やだぁ……もおおぉ……むりぃ……」

すでにもう100回はこえているだろうか、メイコのお尻はまんべんなく赤く染まり、叩かれている本人はアルコールの影響もあって額にかなり汗をかいている。
頬を伝う液体は、汗か涙かわからないようなとても悲惨な状態になっていた。
彼は叩く手を止め、赤く腫れたメイコのお尻を撫でて確認をしながら言う。

「ちゃんと反省した?」
「したしたぁ」
「じゃあ最後にブラシで10回。数えなさい」


──


「次こんなことしたらお仕置きするからね!」

なんてユウリに言ってみた。
メイコは記憶が一気に蘇るのが、少し怖く、少し懐かしい。
過去は過去に置いておこう。
そう思えたのはあの頃から数年経ってからである。